HQ!!を応援してるブログです。腐ってますので何でも大丈夫な方向け。
初めましての方はリンクの「初めに」をご一読ください。
since2011.03.10
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今度こそ長編を・・・!と思って書いたものです。以下、読む前にご注意ください。
※旭さん二年、のやっさん一年の秋ごろです。
※旭さんに彼女がいます。
※幸せらぶらぶな二人はいません。切ない、すっぱい系です。
それでも大丈夫だよって方は、追記からどうぞ!
のんびり更新になると思いますが、よろしければお付き合いください。
※旭さん二年、のやっさん一年の秋ごろです。
※旭さんに彼女がいます。
※幸せらぶらぶな二人はいません。切ない、すっぱい系です。
それでも大丈夫だよって方は、追記からどうぞ!
のんびり更新になると思いますが、よろしければお付き合いください。
本当の一番になれなくても。
コートの上でなら、俺は自分の力全てであの人を支えられる。
「それだけで、いい。」
つぶやいた言葉は誰に聞こえるでもなく空気に溶ける。
目をつぶれば、彼と出会ってからのことがまざまざと思い出された。
思えば、ここに、烏野にきたときから、自分の真ん中にいたのは彼だった。
暁の恋
act1
春の晴れた日、桜が満開で気持ちがいい午後の日差しが柔らかく降り注いでいる。
烏野に入学を決めたときから、この日をすごく待ち望んでいた。
そわそわした雰囲気の入学式や、退屈な説明をたくさん受けたのが昨日のこと。
今日は初めての高校の授業で、真新しい教科書を広げながら、気持ちはすっかり遠いところにいっていた。
放課後が近づくたびに、時計を見るたびに、身体がそわそわして浮足立つ。
今日は、バレーボール部を初めて見学に行ける日だ。本当はすぐにでも参加したいが、まず初日は見学ということになっているらしい。
授業が終わるのを待つのももどかしくて、帰りの挨拶が終わった瞬間に体育館に駆けだしていた。
他の一年より随分早く体育館に着いた俺は、中から響く音に吸い寄せられるようにして、入り口に立った。
――俺が今まで見てきたものと、全然違う。
そこにあったのは、自分よりずっと大きな身体が飛び上がって、身体全体をしならせて、風を切るみたいに鋭く腕を振る姿。
厚い手のひらに吸い込まれて、その瞬間に、向こうのコートの床に叩きつけられるように飛んでいくボール。
振り抜いた腕の力強さと、床を軋ませる重い音。全てが自分を熱くさせた。
彼の、旭さんのスパイクを見たその瞬間から、この人こそ自分のエースだと強く思った。
大きな身体に大人びた顔つきも、背が低くて童顔な自分にはどれもないもので、見学の間じゅう、ずっと彼の姿を目で追っていた。
実際に話してみたら、びっくりするくらい弱気なエースだったことは予想外だったけれど。
それに本物の旭さんは、見学のときに思い描いたような男の中の男っていうのとは随分違っていたけれど。
それでも、俺は旭さんのことを本当に尊敬していたし、少し優しすぎる態度と試合とのギャップは、試合中の彼を余計に魅力的に映していた。
「旭さんはかっこいいんです、もっと自信持ってください。エースなんだから。」
「ま、またまた。そんな風に言うの、西谷だけだよ。」
そんな会話をすることも多かった。褒められるのが恥ずかしいという彼は、いつも困ったように頭を掻いていたけど、それでも少しずつ距離は縮まっていた。
「まったく、西谷はいつも旭にべったりだな。」
「愛されてるなー、旭。」
だって俺、旭さんのこと好きっすから!
そう答えた俺に、いつも旭さんは恥ずかしそうな困ったような、優しい顔を向けてくれた。
俺はそれにニカって笑って、旭さんの背中を叩く。周りの人は「西谷のが男らしいなー」なんて笑った。
そんな風に言われるのも、別に嫌じゃなかった。旭さんも、嫌がってるようには見えなかったから、それでいいと思っていた。
他の後輩で、旭さんと本や漫画の貸し借りしてる奴も、旭さんと二人で出かけたことある奴も、旭さんの家に遊びに行ったことのある奴だって、きっといない。
一番仲の良い後輩。少し特別な自分の立ち位置に、すごく満足していた。西谷夕は、東峰旭という人間が好き。それは間違いなかった。
しかし、それは何も知らなかったからこその幸せな時間だった。
本当の気持ちを知ることは、必ずしも幸せではない。見たくなかったものが、目の前に立ちふさがることだってあるんだと、このとき初めて知ることになった。
旭さんがモテるという話は、前から知っていた。女子に告白されたらしいなんて噂を聞いたこともあった。
でも、自分と一緒にいるときの旭さんはそんな話は一度だって出さなかったし、好きな人がいるとか彼女が欲しいとか、そんな話も聞いたことがなかった。
だからそのときは、旭さんはさすがだな、と尊敬を強める材料の一つというくらいだった。
不本意ながら可愛いと評されることの多い自分と比べると、男として悔しいと気持ちも少しはあったが、それはまた別の問題だ。
その日、俺は初めて人が告白されるという現場に遭遇した。
本来なら、わざわざ物陰に隠れて覗き見なんてしない。しかし、その告白されている相手を見て、そんなことは言っていられなくなった。
少し丸めた大きな背中は、自分があまりによく知る人だったからだ。
本当に、告白とかされるんだと驚いた。そして、後でこっそりからかってやろうとか、そんなことだって考えていた。
向こうから見えないように、その様子をうかがう。
けれど、真剣に向き合っている二人を見ると、さっきの軽い気持ちは一気にしぼんで、なんだか胸がずきずきと痛い。
これは、覗きなんてしてる罪悪感のせいだろうか。
「ずっと、かっこいいなって思ってて。その、よかったら付き合って、くれないかな・・・?」
自分と変わらないくらいの背丈の女の子が、俯きながら一生懸命に言葉を紡いでいた。
「や、俺、その別に、かっこいいとかじゃないよ?」
彼女の前に立つ男は、困ったように、恥ずかしそうに頭を掻いている。その仕草は、とても見覚えのあるものだ。
自分と一緒にいるときに周りからからかわれたときと、同じものだ。
それにまた、胸が苦しくなる。理由は、分からない。
「か、かっこいいよ!ずっと、見てた、から・・・。」
そう言って、少しの沈黙。それは実際よりもとても長いような気がした。
二人を包む緊張が伝染したみたいに、自分の脈拍も早くなる。どく、どく、どく。
逃げ出したいような、でも最後まで見届けないといられないような葛藤が自分の中にあった。
その、俺でよければ・・・という男の言葉が聞こえた瞬間、俺は後頭部を殴られたみたいな衝撃を受けた。
そして、その男の――旭さんの顔を見た瞬間、目の前が真っ暗になった気がした。
――なんで、そんな顔で笑ってるんだよ、旭さん。
優しく下がる眉尻と、細められた瞳。赤みを帯びた頬と、熱くなった耳。恥ずかしそうな、特別なものを見るような、そんな。
――そんな目で、他の人のこと、見ないでくれ。
どうして、そんなことを思ったのか。
さっきから痛い心臓は、さらに痛みを増して、ぎゅうっと胸のあたりを握りしめなきゃ立っていられない。
頬を生ぬるい水滴が、つうっと伝った。
――どうして、俺じゃないんだ。
旭さんにとっての一番は、俺じゃない。どんなに好きだと言ったって、旭さんは俺にあんな顔はしてくれない。
コートの中では繋がっていられても、どんなに距離が縮まっても、俺はあくまで仲の良い後輩でしかない。
そこまで思って、西谷は愕然とした。ずっと気付かなかった気持ちが、突然の目の前に現れた。
これは、嫉妬だ。
あの女の子に対して、俺は、嫉妬してるのか。
少し距離を開けながら、そっとぎこちなく手を繋いだ二人の後ろ姿を見ていられなくて、目を逸らした。
女の子が握っているその手は、旭さんの右手だ。あの強烈な、鮮やかなスパイクを打つ、右手だ。
どうして、あの手を取るのが俺じゃないんだ。あの場所は、俺の・・・
そんなどうしようもないことを思いながら、俺はずるずるとその場に座り込んだ。
自分の影を落としたアスファルトに、ぽつりぽつりと出来たシミも見たくなくて、ぎゅっと目を閉じた。
好きだと気付いたときには、失恋していたなんて。こんなむなしいことは人生でそうそうないだろう。
まあ正確には、失恋したから好きだと気付いたというべきか。なんというか、もう笑うしかない。
それからしばらくは、気付いてしまった自分の気持ちに向き合うのに一杯いっぱいだった。
俺は女子が可愛いっていう理由と、黒い学ランに憧れてこの学校に入学した。つまり、男を好きになるなんて思ったこともなかったのだ。
だから、そんな自分を受け入れられなくて苦しかった。でも、旭さんのことを思い出すたびに、顔を見るたびに、胸が痛い。
気がつけば、無意識に旭さんの姿を探している自分がいた。
でも、目が合いそうになると耐えられなくて、ばれないように視線が合うのを避けていた。
こんな自分は嫌だったけれど、他にどうしたらいいか分からない。だって、こんな気持ちは初めてなのだ。
顔を見たいけど、見たくない。声を聞きたいけど、聞きたくない。傍にいたいけど、いたら苦しくなる。
他の誰かと話しているのを見れば、それだけで心が重くなる。校内で女の子と話しているところなんか見れば、その日は一日中テンションが下がった。
この気持ちは、気のせいなんかじゃないと突き付けられるようだった。
告白を見てから数日後の帰り道、みんなで帰ろうとしたところを、呼びとめられた。
相手の顔を見て、俺は心臓が止まりそうだった。
「西谷、今日、一緒に帰らない?」
「あ、は、はい。帰ります。」
別に一緒に帰るのはよくあることだ。うちは先輩後輩の仲が良いから、みんなで帰るなんてそれこそ毎日みたいなもんで。
でも、旭さんから一緒にって言われることは自分から言うよりずっと少ないので、俺は動揺していた。
みんなと少し離れたところを二人で歩く。一緒に帰ろうって言った割に、旭さんは何も言ってこないし、こちらも話かける余裕もないから、沈黙が続いた。
結局ほとんど話さないまま、坂ノ下商店が見えてきた。そこまで来て、ちょっと待ってて、と旭さんが言ったので俺は足を止める。
みんなはもうすでに店に着いて、楽しそうに買い食いをしているのが見えた。
告白を見てから数日、旭さんの顔を見るのもつらかったけれど、でも必死に部活中は顔に出してないつもりだった。
でも、もしかしたら、何か旭さんに勘づかれるようなことがあったんだろうか。
そうだったらどうしようか、玉砕するって答えが分かってる告白をするのは、どう考えてもキツい。
そんなことをぐるぐる考えていた俺の目の前に、冷たいものが差し出された。
「へ?」
「これ、あげる。みんなには内緒ね。」
それは俺の好きなガリガリだった。旭さんの手にも、同じものが握られている。
「あ、ありがとうございます。」
なんでガリガリをくれるのかはよく分からないが、とりあえず袋を開ける。
もう秋に入ろうかという季節だったが、部活後の乾いた身体には冷えたそれはちょうどよかった。
「あのさ、西谷。」
「は、はい!」
「その、最近、なんか悩みごととか、ある?」
「え。」
悩みごとならあるけれど、その原因そのものである人に言えるわけもない。俺はぶんぶんと頭を振って、否定した。
「いい、いや、特には!」
「そう?なら、いいんだけど・・・俺でよかったら、その、相談とか乗るから。」
俺じゃ頼りないかも、しんないけどさ。
大きな手が、頭に触れた。厚い手のひらから伝わる熱に、一気に顔がほてる。それは最近避けがちだったせいか、随分久しぶりな気がした。
周りが暗いから、赤い顔が旭さんには見えないだろうことが救いだった。
旭さんはやはりそれに気付かなかったみたいで、「そ、それだけだから、呼びとめてごめん!」と言いながら、そそくさとみんなの輪に戻っていった。
手の中に残るガリガリを見て、俺はふうっと息を吐く。
よかった、俺の気持ちがばれてたわけじゃないのか。
でも、なんで旭さんには俺が悩んでいることが分かったんだろう。いつも一緒にいる龍だって力だって、何も言わなかったのに。
「西谷。」
「っ!?はい!!」
考え事をしていたところに突然名前を呼ばれて、俺はばっと顔を上げる。そこにはスガさんがいた。
「大丈夫?」
「へ?はい。」
何が大丈夫なのかは分からないが、とりあえず肯定を示した。
「いや、旭がさ、西谷がなんか変だって、様子がおかしいから何か悩んでるのかもって気にしてたからさ。」
・・・。
「俺にはよく分からなかったんだけどね、絶対何か違うって。旭、なんか言ってなかった?」
「さっき、悩みがあるなら、相談しろって言われました。」
「へえ、珍しいね。旭、思っててもそういうこと言うの苦手なのに。」
「苦手、ですか?」
「旭ってね、誰かが悩んでるのとか、そういうの気がついても自分から聞けないんだって。俺なんかって、ほら、旭ってそういう性格でしょ。
だからいつも、俺や大地に言ってくるの。大地は自分で聞けっていうんだけど、結局は、俺たちが聞くことが多くてね。」
旭は西谷のこと、気にかけてるからかな。
そこまで言って、スガさんは俺の頭をぽんぽんと撫でた。スガさんの手は、旭さんより小さい。でも、同じようにあったかかった。
「でもホント、悩んでるなら何でも相談してね。旭に言いにくいことだったら、俺でも大地でもいいし。」
そう言い残して、スガさんもまた、みんなの輪の中に戻っていった。
二人に撫でられた頭に自分の手を乗せてみた。二人のそれより、更に小さい自分の手。
さっきのスガさんの言葉と、商店のところで佇む旭さんの後ろ姿を見て、泣きたい気分になった。
あの人は、俺のことをきっと本当に大事に思ってくれている。
スガさんが言ってたみたいに、他の奴になら、きっとこんな風に一緒に帰ろうって言ったりしない。
様子がおかしいって思っても、弱気なあの人は、自分から相談してみろなんて言わないんだ。
――これだけで、十分じゃないか。
ここ数日、ずっと胸につかえていたものが少し軽くなった気がした。
失恋しようがどうしようが、俺は、旭さんが好きなんだ。それだけは、偽りようもないことだ。
俺も心のド真ん中に、旭さんがいるんだから。
――俺は、バレー頑張る。拾って拾って、一つでも多く勝つ。
もともと、あまりくよくよ悩んだりするのは性に合わない。
俺は、俺のやり方で旭さんの傍にいるしかない。
たとえ、旭さんの本当の一番は、他の誰かだとしても。
俺だって旭さんに大事に思われてる。違うベクトルだとしても、旭さんの中に俺はいる。
俺ができることは、旭さんがスパイクを決められるように、ただただ、ボールを繋ぐことだ。
それだけでいい。たとえ恋愛感情で結ばれなくても、俺たちはバレーで繋がっていられる。
他の誰にも邪魔させない。あの神聖なコートの上でなら、俺は自分の力全てであの人を支えられる。必要としてもらえる。
うっすら滲んだ視界を、ぐいっと拳で拭って追い払った。
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西谷くんにとって、苦しい恋の始まりです。
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