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また懲りずに長めの話をはじめてしまいました。今回は、旭さん卒業後の遠恋をテーマにやりたいなと思っています^^
長編というよりは、シリーズものという色が強いですが。全体的に短めになると思います。
あと、これは「暁の恋」の続編でもあります。あ、前作を読んでなくても全く問題はないです。
読んで下さったことのある方は、あの二人かーくらいに思っていただけたら嬉しいです^^

ちなみに、前に上げた「きっとずっと、幸せ」はこのお話のプロローグ的な扱いになります。
設定被るところはあるんですが、音駒と合わせてやってる大学パロとは別物です。
更新ゆっくりめになるかとは思いますが、のんびり付き合って頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします!

では本編一話目です、お付き合い頂ける方は、追記からお願いします^^

*****************************

幸せのカタチ

act1.春




「引越しの荷物、これだけですか?」
「うん、それで最後。思ったより少なかったかな。」

彼はダンボールが無造作に積まれた部屋の真ん中で、最後の一つを床に置き、汗ばんだ額をぬぐった。
だいぶ暖かくなった陽気に、日差しの入るリビングは動き回ると少し暑いくらいだった。
換気をしようかと言って、ベランダに続く大きな窓を開ける。春の風が、さあっと部屋の中を通り抜けた。

「もう、すっかり春ですね。」

桜が咲いてますよ、とベランダから下を見降ろした彼が言う。倣うように指差した方を見れば、川向こうの道に並ぶ木々は柔らかい色をしていた。
明日は、少し歩いてあの川べりの土手を歩くのもいいかもしれない。薄桃色と青が混じる景色を眺めながら。
それを提案すれば、また彼は笑う。少年のような笑顔は、出会ったときから変わっていなかった。

出会ってから、今日まで。自分の傍には彼がいたし、彼の傍には自分があったと思う。
でもこれからの一年は、二人の間に大きな距離が出来る。近くにいられたらと、どんなに願っても決して埋められない距離が。
それでも、心まで離れるという選択は出来なかった。離れても、目の前にいなくとも、心は繋がっていると。
見えないものだけを信じて、この一年を過ごすことを決めたのだ。

隣に立っていた彼が、自分の袖口を握った。
つい、と引かれるように、部屋の中に一緒に戻る。リビングを通り抜けて、さっき置いたばかりの二人掛けのソファに座るように促された。
理由は分からないが、促されるままにそこに座った。軽く沈んだ膝の上にまたがるように、彼が座る。
急に近づいた距離に、少し心臓がざわめく。じっと見つめる琥珀色が、何を考えているかなんて分からないから、首を傾げてみた。
それでも何も言わないので、なるべくなんでもない風を装って、彼に尋ねかけた。

「どうしたの、西谷。」
「いえ、別に。・・・ただ、旭さんは、ここにいるんだなって、思って。」

そう思ったら、なんかこう、じっとしてられなくて。くっつきたいなって。

まとまらない言葉をふわふわと空気に散らしながら、彼の手のひらが頬を挟むように押し当てられる。
小さなそれは、形を確かめるように頬の上を滑っていく。
くすぐったいよ、と言ったけれど、はなしてほしいわけではない。それは彼も分かってるみたいで、ふっと頬を緩めた。

「今まで、触れられるのが、当たり前でしたね。」
「うん、いつも傍にいたよね。」
「でも、それがすごく幸せで・・・恵まれたことだったんだなって。」
「うん、俺も、何度も思った。」

近くにある間は、頭では分かってても、実感なんて湧かなくて。バカだなって思うけど、本当にそうだった。
あの二年間を、もっともっと、大切に過ごせばよかったなんて、今になって思うんだ。
きっとお互いに、付き合いだしてから今まで、精一杯に大事にしてきたはずなのに、後になればそう思って仕方ない。

胸に、ことんと彼の頭がもたれかかる。自分より小さな背中が眼下にあって、それをゆっくり上下に撫でる。
一緒に息をして、一緒に息を吐いて。ただそれだけを繰り返す、この時間はなんて柔らかいんだろう。

西谷。
旭さん。
西谷。
旭さん。

ぽつりぽつりと、名前を繰り返す。好きも、愛してるも、そんなたくさんの言葉より、この名前は尊い。

ずっと、傍にいられたら。

でも、その言葉は言わないと決めている。
ずっと先の未来に、二人一緒にいられるように、今は耐えなくてはいけない瞬間なんだと心に言い聞かせた。




簡単に片した部屋の中で、少し大きめのベッドに並んで眠った翌朝。
何度も好きを確かめ合うみたいに過ごした夜のせいで、身体は少し気だるさを残していた。
でも起きた時、隣に幼さの残る彼の顔があったことは、胸の中をあったかくした。
大きな瞳を隠した白い瞼を見つめていたら、ぐずぐずとそれをこするように手が伸びる。
何も言わず、ただ眺めていたら、隠れていた琥珀色の瞳がぼうっとこちらを捉えた。

「西谷、おはよう。」
「はよー、ございます。」

寝惚け眼の彼は、舌足らずな声で返事をした。それを微笑ましく見ていると、「旭さんニヤけすぎ。」と照れて顔を隠してしまった。本当に、可愛い。

「今日は、出かけようか。」
「片づけ、終わってませんよ?」
「いいよ、後で。今は一緒に、ゆっくり過ごそう。」

俺、片づけ手伝うために来たんですけどね。そう言いながらも、彼の頬は緩んでいて、その言葉は形だけのものだと分かる。
だって、今日の夕方には、西谷は宮城に帰ってしまう。当たり前だ、春休みといっても部活はあるし、何よりまだ高校生の西谷をそう何日も拘束はできない。

二人で簡単な朝ご飯を作って、服を着替える。ジーンズの後ろポケットに、長財布を突っ込んだ。
西谷はもう、玄関で靴を履いている。じきに、早く行こうと急かされるだろう。
右手に握ったものを、どうしようか迷う。二度、三度握り直してみて、結局、それは上着のポケットの中にしまい込んだ。
少し離れたところから、名前を呼ぶ声がした。




「わあ・・・桜、キレイに咲いてますね。」

昨日ベランダから見た川べりの土手を、西谷と歩く。半歩前を行く彼は、ふらふらと上を見ながら足を動かしている。
倣うように見上げれば、手前の桜と、奥の青空が視界に広がった。今日はとても天気がよくて、雲はほとんどなかった。
西谷の手を引いて、土手を下りる。河原のような場所に、二人並んで座った。

「東京は、こんな時期にもう桜が咲くんですね。」
「宮城はまだ、つぼみだよなあ。」
「やっぱり、違うんですね。」

しばらくは、ただぼうっと見上げていたけれど、そっと自分の右手に小さな手が添えられた。
それから、肩に預けられた体温。お互いを支え合うみたいに、自分も頬を彼の頭に擦り寄せた。

「気持ちいいですね。」
「昼寝したくなった?」
「あー気持ち良さそう・・・でも、しないっす。」

もったいないから。
そう言って笑う彼の声に含まれた寂しさに、どうして気付かないでいられるだろう。
抱きしめたい、抱きしめたい。そうしてしまえば、少しでもこの目の前にいる愛しい人の不安を、和らげてあげられるだろうか。
手を伸ばそうか、としたところで彼はするっとこちらに預けた身体を離した。
少し拍子抜けした自分に気づかず、脇に置いてあったビニール袋をがさがさと漁りだす。

「ね、おやつにしましょう!団子、さっき買ったヤツ。」

今度は、ことさら明るく響くように、彼は言う。さっき一瞬見せてしまった寂しさを隠すみたいに。
そんないじらしいことをされれば、こちらも合わせるしかなかった。美味しそうだね、と言いながら、団子を口に含む。
結局それからは、彼と身体を寄せてたくさん話をした。
卒業前からバタバタしていて、ほとんど会えなかったし、昨日は片づけをしたらすぐにベッドにもぐってしまったから。
こんなに穏やかに、ゆっくり話をするのは久々だった。

「一年のGWの合宿が終わったくらいに、旭さんの家に初めて遊びに行きましたね。」
「雨が降っててね、止むまでって言いながら、結局晩御飯まで一緒に食べたっけ。」

「夏休みの宿題が終わんなくて、龍と二人で先輩に泣きついたり。」
「大地が笑顔で怒ってるから、二人ともいつになく真剣に勉強してたね。」

離れることや、寂しいことには触れないように、お互いの共通の思い出を紡いでいく。
一緒に過ごした二年間は、きらきらとしたものばかりではないけど、それはどれもかけがえのないものだ。
些細なことでもなんでも、言葉にするたびに、その時の気持ちが蘇ったみたいに笑ったり、からかったり、ちょっとすねたり。
くるくると表情を変えて話す彼を見ているだけで、ああこれからも、こんな彼を見ていたいなと心から思う。
話の途中、何度か、ポケットに手を入れてみたけれど、結局そこに仕舞ったものを取り出す勇気は持てなかった。




肩から下げる大きめのバッグに、さっき駅の近くで買ったお土産ものを詰め込む。
夕暮れ時の駅のホームには、たくさんの人が行き交っていた。こんなに人がいたら、手を繋ぐこともできない。
でも、少しでも隣の人の体温が欲しくて、隣の指先が時折触れる距離のままに歩いた。

「あ、もうここら辺で、大丈夫っすよ。」

改札の手前で、西谷が言った。まだ、ポケットの中のものは、渡せていない。
これが、最後のチャンスだというのに、俺はやっぱりへなちょこで、言いだせない。

「あと、何分?」
「あと五分です。」

悪あがきのように時間を聞いてみたが、思った以上に猶予はなかった。乗り遅れたりしたら、大変だ。ああ、でも。
右手をポケットに突っ込んで、何も言えずに固まる俺に、西谷が一歩二歩と距離を縮めた。
そして、ポケットの上から、その右手に手のひらを添える。
驚いて見下ろす俺に対して、西谷は少し困ったような仕方ないなというような表情を浮かべて、ポケット越しに右手を撫でた。

「次でも、その次でも、いいですから。」
「え・・・」
「旭さんが、大丈夫って思ったら、渡してください。」
「!に、しの・・・」

反射的に取り出そうとした右手は、そっと押さえられた。

分かってます。でも、今日はもう、行かなくちゃいけないから。

そう言って、西谷は一度だけ、こつんと額を胸にくっつけて踵を返した。
離れるとき、鼻先をかすめたよく知った匂いに、胸がぎゅうっと絞られる。ああ、良く知っている、大好きな匂いだ。
改札を抜けていく西谷を、どうしたらいいのか分からずに茫然と見送る。振り返った彼の大きな声が、耳に響く。

「旭さん、怖いことなんて、ないですよ!」

大きく手を振る西谷は、やっぱり笑顔だった。最後の言葉の真意を汲み取れているかなんて、分からない。
でもきっと、こっちの考えなんてお見通しだったんだろう。俺が悩んでいたことも、全部。

「西谷!」

恥ずかしいとか、そんなの全部かなぐり捨てて、叫び返した。

「次、会う時!絶対に、渡すから!ちゃんと、決めたから!」

周りの視線が痛かったけれど、俯きたくなったけれど、ぐっとこらえて顔を上げた。彼の表情を見たかった、から。
それは自分が期待していたものと、違わない。それがひどく、嬉しかった。
驚いたような表情が、ぱっと破顔する。くしゃくしゃの笑顔に、言ってよかったと思う。

離れていく西谷が、人ごみの中に隠れても、それでもずっと見ていた。
彼の乗る電車が、ホームから出ていくまで、ずっとずっと、そこに立っていた。
右のポケットにしまわれたそれを、そっと取り出す。
真新しい、銀色のそれ。自分のキーケースに付けたものと同じ形。
あの部屋の鍵を渡すことは、彼を縛るみたいにも感じていた。
だから戸惑って、あと一歩の勇気が出なかったのに、それを西谷は、全部分かって言ったのだろうか。

――怖いことなんか、ないですよ。

こんなもの一つで、彼を縛れるわけはない。彼がそんな風に思うヤツじゃないって、少し考えれば分かるのに。
やっぱり俺は、いつも一人で考え過ぎて、臆病になってしまうんだ。
そして最後に背中を押してくれるのは、いつだって彼で。

「次に会ったら、必ず。」

手の熱でぬるくなったそれに、唇を寄せた。彼を想って、彼を想って。




帰りの電車の中、少しまばらに空いている席のひとつに、どっかりと腰を据えた。
エナメルバックを膝に置いて、さっきのことを思い返す。

実は昨日の夜、見てしまっていたのだ。彼が脱ぎ捨てた服のポケットから覗く、小さなモノに。
それでなくとも、ポケットを気にする素振りは着いてすぐに気付いていた。旭さんは、自分で思っているよりずっと分かりやすいのだ。あまり隠しごととは、向かないタイプだと思う。
そして旭さんが、どうしてそれを渡せずにいたのかなんて理由は、彼の性格を考えればすぐに思い当った。

「ったく、ホントにへなちょこなんだから、旭さんは。」

ぽつりと漏れた言葉は、呆れ半分、愛しさ半分。あと少しの寂しさだ。

きっと、その小さなモノが俺を束縛してしまわないかとか、考えていたんだろう。
離れる一年間、お互いを想い合うことを疑っているわけではないが、心配性なあの人のことだ。
俺がどんな出会いをするか分からないから。俺の気持ちが変わっていくことを、邪魔しないように。
そんなことばっかり、考えていたんだろう。

でも、俺はそんなの関係ないんだ。旭さんが、カギをくれるとかくれないとか、それが縛るつもりだとかそうでないとか。
雁字搦めにされていても、両手を広げて自由にされていても。ただ、俺は俺の意思で、旭さんの傍にいるんだ。心を寄せて、傍にいるんだ。

「でもまあ、もらえたら、嬉しいは嬉しい、かな。」

それを見て、旭さんを思い出したり。さびしくもなるかもしれないが、繋がっていると心は満たされるんではないかと思う。
アンタがくれるものは、縛るんじゃなくて、繋がるためのものなんだよ。早くそれに、気付いて。

「次に会ったら、必ず。」

最後の旭さんの言葉を思い出して、目を閉じた。まだまだ、宮城に着くまでは遠い。
このまま眠ったら、また夢の中で、さっき別れた愛しい人に会える気がした。



***************************************
大事なのは、心が繋がってること。

旭さんは一人だと考え過ぎてしまってぐるぐるしちゃうタイプなんだろうなーと思います。
ここまでお付き合い下さってありがとうございました^^!

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紅葉はるか
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