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HQ!!を応援してるブログです。腐ってますので何でも大丈夫な方向け。 初めましての方はリンクの「初めに」をご一読ください。 since2011.03.10
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三話目です。夏の次なので秋です。ちょっと季節が追いついてきた・・・!
以下に、ご注意を。

※旭さん大学一年、西谷くん高校三年の秋です。旭さんは東京の大学に進学してます。
※二人は付き合ってます、遠恋ものです。
※モブが一瞬出てます。

大丈夫という方は、追記からお願いします!


**********************

好きなの、東峰くんのこと。

その言葉に、黙って耳を傾けた。そして、ゆっくり息を吐いて、座った足元に視線を遣る横顔を視界の端に捉えた。
自分も彼女と同じように、足元に視線を落とす。隣の落ちついた赤いパンプスのつま先が、遣り場もなくコツコツとぶつかり合って、返事を待つ彼女の心をひっそりと映し出していた。

「ごめん。俺、付き合ってるヤツがいるんだ。」

「そっか・・・。」

ごめん、ごめんね。お互いから謝罪の言葉しか出なかった。それから彼女は、ふっとゆるく吐息を零した。

「じゃあ、これからも、友達。それくらいは・・・いいよね?」

こくりと頷く。それを見て、ゆっくりと立ち上がる気配がした。自分はまだ、ベンチに腰を下ろしたままだ。

「ありがとう、またね。」

そう残して、長い髪を揺らす後ろ姿が遠くなった。まだまだ自分は、動けそうにない。

古ぼけたこのベンチの脇に植えられた木々から、薄く香ったそれは、覚えがあった。見上げれば、深い緑の葉の間から、オレンジ色の花を見え隠れさせている。
これは、金木犀の匂い。懐かしい、坂ノ下から駅に続く道の途中にある公園にも、それは植わっていた。フェンスを越して、歩道に少し乗りだすようにして伸びた枝から散る花びらが、アスファルトの上に落ちていく。
何度も通った帰り道とこの甘い匂いは、記憶の中で結びついている。

一度目の秋は、大地とスガと並んで歩いた。バレー部の中で、これから頑張ってレギュラーを取りたいと胸に秘めていた。バレーが好きで、仕方なかった。
二度目の秋は、彼がいた。まだ付き合う前のこと、ちょうど彼女が出来たころ。自分は何も知らず、ただ後輩として彼を見て、笑っていた。
三度目の秋は、引退して、一人歩くことが多くなった。でも時折、部活が終わる彼を待って一緒に帰った。ただの帰り道が、二人でいられる特別な時間だった。

高校時代、どの記憶をたどっても、どこかしこに彼の面影がある。彼の頭の上から見下ろすと、立てた髪の毛が目に入る。前髪だけ明るい色をした独特のそれ。
すっと尖る鼻先と、その下にある赤い唇。高校生男子にしては小さい肩、並ぶと大きさの随分ちがう靴、つま先。
大きい瞳、丸くなったり、鋭くなったり、きゅっと細まったり。怒ったり笑ったり、騒いだり静かになったり。たくさんの面影が胸の中に浮かんでは消える。

「・・・会いたいな。」

ぽつり、零した言葉は空気を揺らして静かに響いた。思っていたより、随分と思いつめた響きだった。
会いたいなあ。その言葉を、自身でもう一度反芻する。音にすれば、形にすれば、そのぼんやりとしていた気持ちは、一気にはっきりとした輪郭を持った。

我慢出来そうにない。こんなに突き動かされるような情動は、初めてかもしれない。
戸惑う自分もいるけれど、その気持ちは刻一刻と形を浮き上がらせている。

会いたい。西谷に、会いたい。

気がつけば、駆けだしていた。まだ、間に合う。今出れば、夜にはあの場所へ帰ることができる。
公園のベンチには、もう誰もいない。さわさわと風に吹かれては揺れる、金木犀だけが変わらずそこにいた。





幸せのカタチ

act3.秋





学校の昇降口を出たのは、午後7時を回った頃だった。最近、放課後は毎日のように居残って受験対策の補習を受けたり、先生に分からないところを質問したりしている。
勉強は、あまり好きではない。お世辞にも良いといえる成績ではなかったし、椅子にじっと座って頭を使うのは、時々叫びたくなるようなむず痒さがあった。
やっぱり身体を動かす方がずっと向いている。汗を流してボールを追うのなら、朝から晩でも出来るというのに。
でも、目標があるからには、まっすぐ頑張る。そういったことは、得意だった。これもバレーで培った根性だと思う。

少し肌寒くなってきた夜の風が、ぴゅうっと前髪をめくり上げる。無意識に、手をこすり合わせた。
早く帰ろう。そう思ったが、離れたところに見える第二体育館がまだ明るいのを見ると、まっすぐ校門に向かえなくなった。
方向転換、一気に動きが早まる。少しだけ、覗きに行こう。疲れた頭と、まだ動き足りない身体。アンバランスな自分を引き連れて歩を速めた。

体育館の扉を開けると、数人の部員がボールを打ったり追いかけたりしていた。全体練習は終わっていて、今は居残り練習の時間らしい。
大きな音をたてて開いた扉の方に、自然と視線は集まる。その中で、一番に声を発したのは日向だった。

「あ、ノヤさん!」

陽だまりみたいな笑顔を見せて駆け寄ってくる。二年になっても、俺の前では可愛い幼い後輩だ。
どうしたんですか、と聞かれたので、ちょっと気分転換だと答えて学ランを脱いだ。靴下のままだけど、軽くレシーブくらいなら出来る。
靴貸しましょうか?という日向の申し出にどうしようかと思ったが、そこまですると気持ちが高ぶってしまうので止めておいた。
軽く身体をほぐして、日向と向かい合う。腰を落として、すっと手を前に出すように構えれば、呼吸が一気に静かになる。
目の前で日向が打ったボールが、まっすぐ自分のところに飛んでくる。キュッと音はしないけど、足の指に力が入った。
ボールの動きに合わせるみたいに自然に動く身体も、腕にジンとくる衝撃も。この感覚が、やっぱり好きだ。

「やっぱり、ノヤさんのレシーブきれいです。」

ネットを片付けて、体育館の戸締りを確認し終わったときだった。日向のその言葉に、隣に立つ影山も、頷いていた。
嬉しいこと言ってくれる。今は少し離れているけど、これにずっと懸けてきたのだ。

「よし、お前ら今日の帰り、ガリガリ君おごってやる!」
「えっ!ホントですか!」

一緒に校門に向かいながら、最近のバレー部の近況などを聞く。もう暗くなっている校庭を突っ切っていると、校門の辺りに一つ人影があった。
遠目で見ても、長身だと分かる。というより、あれは、とても見覚えのある後ろ姿な気がする。
脳裏に名前を思い浮かべて、そんなはずはないと頭を振った。だって、ここにいるはずはないのだ。自分の願望が、幻覚でも見せているのか。
でも、近づけば近づくほど・・・
そこで、ぱっと何か気配を感じたのか、背中を向けていた遠くの人がこちらに顔を向けた。その瞬間、俺は思わず叫んでいた。

「っあ、旭さん!!」

え、旭さん!?と隣できょろきょろする日向と影山から離れて、一気に駆けだした。どんどん距離が近づいていく。
突っ込むみたいにこちらに向いた胸に飛び込んだ。衝撃を受けた旭さんは、たたらを踏んだ。

「よかった、西谷もう帰っちゃってるのかと思った。」
「旭さん、なんでここにいるんスか!!今日、帰ってくるなんて、一言も・・・!」

ばっと顔を上げると、赤い鼻をした旭さんと目が合った。肩に置かれた手も、随分冷えている。
もしかして、ずっと待っていたのか?いつから、待っていたんだろう。

「旭さん、いつから――」
「アサヒさん、お久しぶりです!」

やっと追いついた日向と影山が、挨拶をする。俺は反射的に抱きついていた身体を離した。
旭さんが、久しぶり、と笑顔で答えていた。和やかな空気を作る三人を目の前にしながら、俺の頭の中は大混乱だ。

なんで旭さんがいるんだ、なんでここで待ってるんだ。今日はなんでもない日のはずなのに。

ぐるぐるして黙りこんだ俺の肩を、ツンツンと日向がつつく。
はっと顔を上げれば、にかっと歯を見せる笑顔があった。

「ノヤさん、アイスはまた今度奢ってください。」
「え・・・。」
「旭さん、ノヤさんを待ってたんでしょ?」

じゃあ、お先に失礼します!そう言って、さっきとは逆にどんどん進んでいく日向と影山。
部活の後だというのに、早足くらいだったのが少しもしない間に競争みたいに駆けだしてしまった。あっという間に、背中は見えなくなってしまった。
日向は、俺たちが付き合ってることなんて、知らないはずだ。てっきり、一緒にいるのかと思ったのに。

「まさか、日向に気を遣われるとは思わなかったっす・・・。」
「はは、日向はイイ子だね。」

ですね、さっきも俺のこと、レシーブきれいとか言ってて!・・・と、普通の会話を仕掛けて、いやいや待てと自分にツッコミを入れた。
この状況は、今あり得ないはずのことだ。旭さんが何も言わずに、急に帰ってくるなんて、きっと何かあったに違いない。

「で、旭さん、何があったんスか?」
「何って、その、西谷に会いたくて。」
「っ・・・な、何言ってるんスか?旭さん、おかしいですよ?」
「おかしいって・・・うん、そうかも。」

そうかもって、なんだよ。やっぱり旭さん、変だ。
話をしながら、一歩踏み出した旭さんに合わせるように、隣に並んで学校からの坂道を下っていく。

嫌な感じがした。

不快というのではない。どちらかと言えば、胸騒ぎがする、というヤツだ。
動物が身に迫った危険を察知して不安になったり警戒したりするのに似ている。
旭さんは、何か隠している。隠しているというより、まだ言っていないことがある。
そしてそれは多分、自分にとってあまり良い内容ではないのだろう。

坂ノ下商店も通り過ぎ、駅に続く道の途中にある公園の前にさしかかった。そこで、旭さんは歩を止める。
すっと見上げたのは、目の前にある金木犀だ。旭さんが遠い目をした。心はここになくて、どこかにふっと飛んでいってしまったような。

「旭さん、今、何考えてますか?」
「え、いや、別に・・・」
「隠しごとするなって、前に言ったの旭さんです。俺だって、旭さんが思ってること、知りたいです。」

そろりと視線を逸らそうとする旭さんの頬を、両手で挟む。自分の頭より高い位置にあるので、ちょっとやりにくい。
視線をさまよわせていた旭さんだが、俺がじいっと見続けていれば、観念したように長い息を吐いた。それから、頬を挟んでいた両手を取って、大きな手で握りこんだ。
温め合うみたいに、お互いの間で握り合う両手。それに視線を落としながら、旭さんは口を開いた。

「西谷に、会いたいって思って来たのは本当だよ。ただ、今日ちょっと、びっくりすることがあって・・・。」
「・・・。」
「俺は、全然気づいてなくて。ただ、そんなこと言わせちゃうくらい、俺は無神経に優しくしちゃってたのかな、とかさ。色々思うところがあって。」
「・・・つまり、告白されたってことですか?」

しどろもどろになりながら、ぽつぽつ言葉を零していく旭さんの話は、要領を得ない。
まどろっこしいと思いつつ結論を突き付ければ、うっと息を詰めて、目の前の人はこくりと小さく頷いた。
すぐに頭に浮かんだのは、夏に会ったあの黒髪の女の人だった。きれいな、旭さんと雰囲気の似た、女の人。

「それって、夏に会った黒髪の人ですか?」
「!な、なんで、分かって・・・!?」
「なんとなく、気付いてましたから。相手の人、旭さんのこと、好きなのかなって。」

少しぼやけてしまった記憶を引っ張り出して、あの海でのことを思い出した。
旭さんを見る目が優しくて、ああ、そうなんだろうって思ったこと。

「そっか、西谷はすごいね。俺は、全然気がつかなかった。」
「旭さん、ニブいですもんね。」
「そ、そんなこと!・・・あるのかな、西谷と付き合うときも、大地やスガに散々言われたし。」

うーんと頭を抱える旭さんの足を、俺はギュッと踏んでみた。ええ、と驚いて眉を下げてるその顔を、俺はじいっと見つめる。
まだ、一番大事なコトを聞いてない。一人でぐるぐるするのは、その後にしてもらいたい。

「で、旭さん、何て答えたんですか?」
「え、そんなの、断ったに決まってるでしょ。西谷がいるのに。」
「そうですよね。」

まあ、本当は分かっていたんだけど。それでも、ちゃんと言葉にして聞きたいとか、俺もまだまだ子どもっぽい。
はあ、と息を吐きだしたら、両手を握っていた旭さんの手に力がこもる。少し驚いて見上げると、さっきよりも一段と下がった眉と情けなく歪んだ瞳があった。

「西谷、その、ごめんな?」
「何がですか?」
「いや、不安に、させたかなって・・・」
「なってないですよ。旭さんがモテるのは仕方ないですし、ちゃんと断ってくれるって、分かってますから。」

俺だけ見ててくれれば、それでいいです。
そう言って余裕たっぷりに思い切り笑ってみせれば、ほうっと安心したみたいに、旭さんも柔らかく笑った。
見上げた旭さんの頭上で、金木犀が揺れている。風に乗って、芳香が鼻先をかすめていく。

「金木犀の、匂いがしたんだ。」
「え?」
「座ったベンチの横に、金木犀が植わってたんだ。それで、この公園のこと、思い出した。すごく懐かしくなった。」
「ああ、匂いって、記憶と深いところで結びついてるって、なんかテレビで言ってました。」
「うん、ホントにそうかも。すぐに、西谷の顔が浮かんで、頭から離れなくなってさ。西谷に会いたいなって思った勢いで、気がついたら走りだしちゃってたんだ・・・俺も、自分でびっくりしたんだけど。」
「――っ、そ、そんなの・・・」

ずるい。

しみじみとなんでもないことみたいに言うくせに、内容はこっちが困惑するくらいに甘いなんて。
しかも、きっと無意識で言ってるんだ。そこがまた、タチが悪い。心臓に、悪い。
どちらかと言えば、俺の方が積極的に動くことが多いから、旭さんがこんな風に大胆な行動に出るのは珍しかった。
いつも理性的な人が、こんな突拍子もないことをするなんて――それが自分に会いたいからだなんて――嬉しくないはずがない。

「そりゃ、俺だって、旭さんに会いたいって、いつも思ってますけど・・・。」
「っう、うん、ありがと・・・。」

あ、やばい。今の、墓穴掘った感じかも。
思わず素の言葉が漏れてしまったけど、なんか恥ずかしいことを言ってしまった気がする。旭さんのが、移っちゃったみたいだ。
俺も旭さんも、顔真っ赤になってる。男二人で、こんな近い距離で手を取り合って、しかも赤面って。傍から見たら、相当おかしい。

「俺ら、相当恥ずかしい感じですね・・・。」
「そだね・・・。」

一瞬の沈黙のあと、ぷっとどちらからともなく吹き出してしまった。
旭さんが少し身をかがめて、俺のおでこに自分のおでこをひっつけた。近い、近い。
至近距離で見つめ合っていると、旭さんが目を閉じた。それに倣って、俺もまぶたを下ろした。

柔らかい唇の感触が、かすめるように触れる。幼いような切ないようなキスだった。

「・・・さ、一緒に帰ろう。」
「はい、旭さん。」

両手を離して、隣に並ぶ。いつもの定位置、旭さんの右側から、俺は黙ってその横顔を見上げた。
広く力強い肩の向こうに見える、厚い唇と彫りの深いすっと通った鼻筋。少し垂れた、優しい薄茶色の瞳と、ちょっと下がった眉尻。
ずっと見てきた、その横顔。一年前も二年前も、ずっと傍で見てきた横顔。毎日通ったこの道に咲く、金木犀とその匂い。

ああ、きっと忘れられない。

来年も、再来年もその先も。きっとここを通るたび、こうやって旭さんと並んだ日々を思い出すんだ。
もしここを離れても、この匂いと記憶は、胸の一番奥に残ってる。

「来年からは、隣にいますけどね。」
「え、西谷なんか言った?」
「なんでもないですよ!」

願わくば、ずっと隣にこの人の横顔がありますように。


**************************************
記憶よりもっと深いところで、君のことを覚えてる。

記憶と嗅覚の関係が脳のどっかで繋がってて、ていう話を思い出しながら書いたんですが。
曖昧だったのでさらーっと雰囲気で読んでいただければと思います!

旭さんが勢いこんで行動してしまうのとか、きっとノヤくんのことくらいなんじゃないかなと。
そうだったらいいなと思います。
あとは「冬」です!ゴールまでもう少し、ですかね。
ここまで読んで下さってありがとうございました^^!

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