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長編5話目です。いよいよ大詰めです、次で終わりです。続きも近いうちに上げます。
以下、読む前にご注意ください。

※東西というより西→東です。
※旭さん二年、のやっさん一年の冬です。
※幸せらぶらぶな二人はいません。切ない、すっぱい系です。

それでも大丈夫だよって方は、追記からどうぞ!


****************************

好きです、と泣きながら言う目の前の彼を抱きしめた感覚を思い出した。
骨ばった薄く筋肉のついた身体、ワックスの匂い。

ただ、泣きやんでほしかった。涙なんて、彼には似合わないから。
だから、手を伸ばさずにはいられなかった。





暁の恋
act.5






目が覚めたとき、冬だというのに背中はうっすらと汗ばんでいた。
気分はというと、それはそれはひどいものだ。昨日の自分の行動を思い返して、布団を頭からかぶる。どこかに隠れたい。

昨日は、彼女に振られた。
正確には、合意の上での破局だと思うが、まあ決定打を打ち込んだのは彼女なのでそれでも間違いはないだろう。
もうだめかもしれないと思っていたし、彼女に自分の気持ちがあるか分からない状態だったので、それも仕方ないと思う。
問題はその後だ。

西谷に、告白された。しかも、俺は彼を抱きしめてしまった。

昨日も逃げるように帰ってきて、とにかく寝てしまおうと布団に入ったが、こうして目が覚めてもいっこうに頭の中は整理されない。
そもそも、西谷が自分のことをそんな意味で好きだとは考えてもいなかったのだ。
先輩として、エースとして。そんな好きは、何度ももらっていた。その中に、特別な意味があるなんて、思わなかった。
スガがや澤村がそんなことを時折言っていたが、もしかして彼らは気付いていたんだろうか。

「でも、まさか本当だなんて、思わないって・・・。」

二人が言っていたのも、冗談だと思い込んでいた。しかし、昨日の西谷の様子を見れば、冗談だなんて流せるわけもない。
昨日の西谷は、いつもの男らしい、強気で明るい彼の様相を崩していた。
あんな風にぼろぼろと涙を流している彼は、試合で負けたときでも見たことがない。
だから、本当に驚いた。彼の涙を見ることなんて、今までなかったから。だから――
そこまで考えて、顔に熱が集まっていたたまれなくなった。抱きしめた自分も思い出せば、頭はショート寸前で。
行き場のない恥ずかしさは、手足をじたばたさせることでなんとか霧散する。
この事実を完全に持て余していた。どうしたものか、全くもって答えは出ない。

俺は今日、どんな顔して部活に行けばいいんだ。

がしがしと頭を掻いてみても、答えは出ない。ついでに言うと、時間も止まってはくれない。
今日は午前練、部活の時間が刻々と迫っている。遅れたりしたら澤村に何を言われるか分かったもんじゃない。
とにかく、練習を休むわけにもいかないので、俺は布団から重たい身体を引きずって起き出した。





「おはよーございます・・・」

こっそり、といってもバレないわけはないが、そっと体育館に足を踏み入れる。
まだ号令はかかってないが、早く来ている一年やスガが、ストレッチをしていた。その中に、西谷もいる。
顔を見ただけで、自分の中で少し緊張が走った。

「あ、旭さん!おはようございます!」

練習してる中、こっちに気付いて挨拶してきたのは、西谷だった。
それにつられて、他のみんなからも言葉が飛んでくる。

「あ、お、おはよー。」

なんとか返事をするが、自分でも嫌になるくらいにぎこちない返事だった。
西谷は、あんなにいつも通りにしてるのに。そう思うと、動揺しまくっている自分が余計に情けない。
みんなは遠いせいか、別段気にする様子もなくストレッチを再開した。しかし西谷は、微妙な表情でこっちを見ている。
これ以上顔を見てられないと、顔を背けてまだ履きかけだったシューズの紐を締めるために体育館の隅に座る。
そんな中、集団から抜け出してスガが走り寄って来た。

「旭、なに調子悪いの?」
「へ、いやそんなことないよ。」
「・・・ふーん、なんか変なの。」

スガの視線が痛い。しゃがみこんで、じっとこっちを見ているくせに、何も言わない。

「よし、練習始めるぞ!」

靴紐を結び終わると同時くらいに、澤村の号令がかかる。助かった、と立ちあがった俺の肩をスガがぽんと叩く。

「ま、何か相談があるなら言ってきなよね。」

な、と笑うスガに返事をしたものの、言えるわけないよなと内心思う。
コートの端に整列したとき、西谷と目が合った。西谷は、やっぱり微妙な顔でこっちを見ていて、俺はそろっと目を逸らした。

練習が始まってからしばらくは、西谷のことをそこまで意識せずにいられたのだが、スパイクの練習が始まったところで、困ってしまった。
リベロは拾って繋ぐのが専門のポジション、となれば必然的にスパイクを受ける側になるわけで。
反対のコートに、真剣な西谷の顔がある。どうしたって目に入るそれに、気を取られてしまう。
なんとか打つものの、集中してないのは丸分かりだ。澤村から檄が飛ぶが、それでもどうしようもない。

「旭さん、もう一本!ガッツリ打って下さいよ!」

西谷からも言われてしまって、いやお前がいるから打てないんだよ、とひどい言い訳を心の中でしながらまた腕を振る。
結局、すっきりしたスパイクは決められないまま、次の田中と交代した。もう、西谷の方は怖くて見れなかった。

休憩に入ると同時に、外にある水道に向かう。蛇口を勢いよくひねって、冷水でがむしゃらに顔を洗った。
冷たい水は肌に刺さるみたいに、びりびりと皮膚の感覚を刺激して痛いくらいだ。
もう12月だっていうのに、こんなことをするのは普段なら考えられない。
でも、頭の中がぐちゃぐちゃで、そうでもしないと落ち着けそうにもない。

「あー、冷たっ!」
「当たり前ですよ、今何月だと思ってんすか。」

ばっと横を見れば、すぐ傍に西谷がタオルを持って立っていた。
はい、とタオルを渡されて、とりあえず受け取る。顔を拭いている間も、西谷は動かない。

「あ、ありがと・・・」
「旭さん、今日の練習すっげー調子悪いのって、やっぱり落ち込んでるんすか?」

タオルから顔を上げ、笑顔で取り繕おうとしたが、一瞬で固まってしまった。すっげー調子悪いって・・・。
西谷は、こういう奴だ。遠まわしに言うとか、そういうのは一切ない。単刀直入にばっさり切りこんでくる。
しかし、話かけてきたのはてっきり練習なんだから切り替えろとかそういうことを言われるのだと思ったのだが、落ち込んでるというのはどういうことだろう。
ばっさり切りこんだ割に、気遣わしげな目がこっちを向いている。あまり彼らしくない表情に、ますます真意を測りかねる。

「えと、何が?」
「だから、昨日・・・その、彼女さんと。」
「ああー、いや、それはあんまり・・・まあ、申し訳なかったなとは、思うけど。」
「え、違うんすか?」
「うん。」

なるほど、西谷は俺が振られたことを引きずってると思っていたらしい。でも、それは自分の中で整理のついてることだった。
予想が外れた西谷は、うーんと唸る。昨日は、自分も結構すごいこと言ってたでしょ、と心の中でつっこんだが口にはしなかった。
そのまま黙りこんでしまっていた西谷だったが、ぐっと眉間にしわを寄せてこちらに視線を向けてきた。

「じゃあ、やっぱり、俺が昨日、あんなこと言ったから・・・気持ち悪いとか、そういうことですか?」
「へ?」
「だって旭さん、目合わせないように、顔見ないようにするし・・・だから、引いてるのかなって。」

気まずそうに、でも必死で目を逸らさないでそう言った西谷に、俺はぽかんと口を開けるしかない。
確かに西谷の言ったことが原因といえばそうだが、そういう意味ではない。断じてない。
全く考えてなかったことを言われて、ただただ驚いた。

「え、そ、そんなこと思ってないよ!」
「・・・本当に?」

ぶんぶんと首を縦に振ると、西谷の眉間のしわが緩む。そうっすか、と呟いた声には安堵の響きがあった。

「ただ、その、俺も昨日、変なことしちゃったから・・・どんな顔して会えばいいんだろうって、思ってて。」
「あ・・・。」

言ってから、しまったと思った。恥ずかしさで赤くなる頬を隠そうと、タオルを顔に押し付けるが、全く隠せていない。
目の前の西谷も、思い出してしまったのか耳まで真っ赤にしていた。お互いに何も言えなくて、沈黙が流れる。なんとも気まずい空気だ。

「あの。」
「はい。」
「西谷のこと、気持ち悪いとか、そんな風に全く思わないよ。いい後輩だし、チームメイトとして尊敬も信頼もしてる。でも、俺はあくまで、そういう風にしか見たことがなくて・・・」
「・・・。」
「だから、さ。」

少し、考える時間をくれないかな。

やっとで絞り出した声は、情けなかったけど、西谷にはちゃんと届いたみたいだ。
西谷の目が、ぐりんとこっちを向く。不安そうな瞳が、俺を捉えている。
昨日といい今日といい、こんな西谷の表情は今まではあんまり見たことなかった。
さっきまで、みんなの前では普通に振る舞っていたけど、それも彼なりに必死にそうしていたのかもしれない。
そんな西谷がいじらしく思えて、不安を鎮めてあげたくて、固めた髪を撫でた。この髪の感触も、柔らかくなる西谷の表情も、密かに気に入っていた。
でも無意識にやっていたこれさえも、今はなんだか別の意味を持つみたいで、少し気恥ずかしかった。

「ちゃんと、考えるよ。」
「・・・はい。」

緊張の色は残っていたけど、少し緩んだ頬に、ほっとした。
そこで、体育館からブザーの音がした。休憩終了の合図だ。

「わ、やばい。急ごう、西谷。」
「うっす!あ、それから旭さん、練習は練習っすからね!ちゃんと集中してやってくださいね!」
「はい、スミマセン。」

あ、やっぱりこういう方が、西谷らしいな。
こっそり胸のうちで笑いながら、二人で体育館の方に向かって走り出した。





「え、風邪、ですか・・・?」
「ああ、全く最後の最後にな。あいつホントへなちょこだわ。」

今年最後の部活に出た朝、いつものお団子頭が見えないのでどうしたのかと大地さんに聞いた結果がそれだった。
それを聞いて、そうっすか、なんて返事をしたが俺は内心すごく焦っていた。
今日会えたら旭さんにお願いしたいことがあったからだ。

――初詣、一緒に行きたいって、思ってたんだけどな。

初詣といっても、ただ神社にお参りに行くというだけではない。
もちろん、そうやって一緒に出かけることも楽しみなのだが、何より元旦は旭さんの誕生日だ。
好きな人の誕生日に何もしないでなんかいられないし、一緒に祝えたらなと思っていた。
ただ、告白はしたものの返事待ちという微妙な状態なので、柄にもなくどうやって誘えばいいかと色々悩んでいたのだ。
それなのに、風邪。まさかの不意打ちに大ダメージだ。
こっそり落ち込んでいる俺の横にスガさんも来て、大地さんがまた旭さんのことを説明した。

「え、旭ってば風邪なの?じゃあ大晦日は無理かなー。」
「どうだろ、まだ二日あるけど・・・でもまあ俺は別に、いなくてもいいけどな。」
「もう、大地ってばすぐそういうこと言うんだから。」

スガさんと大地さんのやりとりに、旭さんの名前が出たので思わず首を突っ込む。

「えと、大晦日に何かあるんですか?」
「ん?ああ、大地の誕生日が大晦日で、旭の誕生日が元旦でしょ?だから去年、三人で一緒に年越ししてお祝いしたんだよね。だから、今年もどうかなって言ってたんだけど――」

そこまで言って、少し考えるみたいにスガさんの動きが止まる。そのあと、何やらぼそぼそと大地さんに耳打ちをした。
訳が分からない俺は完全に置いてきぼりだったが、くるりとこちらに向き直ったスガさんは満面の笑顔だった。

「でも、旭は体調悪いみたいだし、今年は誘うのやめとく。旭は寂しいかもしれないけど、仕方ないもんね。」
「は、はあ・・・」
「あと、その寂しい旭に、誰か来月の練習スケジュールを届けてあげてほしいんだけど・・・西谷、お願いできないかな?」
「・・・。」

そこまで言われたら、いくら俺でも察しがついた。かあっと頬が赤くなるのを抑えきれない。
スガさんは、いつから気付いてたんだろう。旭さんはこういうこと、言いふらすような性格じゃないし。
しかもこの感じだと大地さんにもばれているんだろう。うわ、めちゃめちゃ恥ずかしい。

「・・・スガさん。」
「なあに、西谷。」
「その・・・ありがとう、ございます。」
「えー、何が?お礼言うのはこっちの方でしょ。よろしくね、西谷。」

はぐらかされたけど、まあいい。ここは素直に感謝しておこう。何はともあれ、旭さんと会う口実が出来た。
今日の帰りに、行こうかな。あ、体調まだすげー悪いかも・・・でも、お見舞いだし、一応メールしたら、大丈夫かな。

色々と考えているその後ろで、ぬるく微笑んで見守っているスガと大地がいることを、西谷は気付いてなかった。






「旭、熱どう?」
「んー、朝よりは、だいぶマシ。」

体温計を見ながら、スポーツドリンクを持ってきてくれた母親の質問に答えた。
三十七・五度。もう微熱程度だし、喉はちょっと痛いけど、頭痛もだいぶマシになった。
まさか、風邪を引くなんて思わなかった。ここ最近、色んなことがあったから、知恵熱ってやつかもしれないけれど。
今日で、部活最後だったのにな。大掃除とか色々あるのに、みんなに迷惑をかけてしまった。


ヴヴーッ

マナーモードにしていた携帯が、ベットの傍のサイドボードで震える。
手を伸ばしてメール画面を開けば、スガから一件のメールが入っていた。

――体調はどう?大晦日だけど、今年はナシね。旭はゆっくり身体休めて、元旦までに絶対に元気になること!

「・・・どういうこと?」

スガのメールを眺めながら、ぼそりと呟く。大晦日が無し、というのは分かる。
数日前に、去年みたいに三人で一緒に年越しをしようかって話が出ていたのを思い出した。まあ、結局なくなったみたいだけど。
元旦までに、というのは、来年まで風邪を持ち越すなってことかな。早く治せっていう意味なんだろうか。
ぼーっと画面を眺めながら考えていたら、急に画面が受信中の映像に切り替わって、また携帯が震えた。

「?今度は、誰――」

送り主の名前を見て、固まる。え、ともう一回見ると、やっぱりさっき想い浮かべていた人物と同じ名前が書いてあった。

――体調、どうですか?今日、来月の練習スケジュールを預かりました。昼から、届けに行ってもいいですか?

「えええ・・・。」

練習スケジュールなんて、メールでとりあえず聞いておけば大丈夫だろうに。
でも、それをわざわざ西谷が届けに来るっていうのはどういうことだろう。家まで会いに来るなんて、何か別に用事でもあるんだろうか。
どうしようと思ったが、これを断るというのも変な話だ。西谷に避けてるなんて思われるのも望むところではない。
あ、やばい、変な汗が出てきた。ちょっと意識しすぎているんじゃないか、落ち着け。
少し焦りながら、返信を打つ。何度か間違えて、なかなかちゃんと文章にならなかった。

――だいぶ良くなったよ。わざわざ悪いな、ありがとう。

たったこれだけの文章だけど、何度も見返してから送った。
今までだって、メールくらい普通にしてたのに、それさえも一苦労だ。西谷のことになると、動揺したり、焦ったりしてしまう。
携帯をベッドの枕元に転がして、大きくため息を吐いた。





よく知った道を小走りで駆ける。前に通ったときは夏模様だった景色が、今ではうっすら雪を被って冬の姿に変わっていた。
駅から東に伸びる道を歩けば、小さな川沿いの道に出る。コンビニのある角を住宅街の方に入っていけば、もうすぐだ。

旭さんの家に行くの、久しぶりだ。

夏の終わりくらいまでは、よく遊びに来ていた。旭さんの家で、DVDを見たり、ゲームを持ち込んだこともあった。
でも、旭さんに彼女が出来てからは、一度も来れなかった。遊ぶことさえ出来なかったのだから当然だ。
たった数か月前のことなのに、なんだかそれらが遠い日々のように思えて、懐かしい気持ちになる。
「東峰」の表札がかかったドアの前に立つと、駆け足で少し早くなった心臓が、さらに加速した気がした。
インターフォンを押す手が少し震えてるなんて、かっこ悪いなと思った。

ピンポーン。

しばらくして、玄関のドアが開く。現れたのは、旭さんのお母さんだった。

「あら、西谷君?久しぶりね。旭、ちょっと風邪引いてるんだけど・・・」
「こんにちは!旭さんに、届け物があってきました。あの、おじゃましても、いいですか?」

わざわざ悪いわね、と言いながらおばさんは快く家に入れてくれた。
二階へと上がる階段も、前と同じだ。階段を一段上がるたび、少しずつ身体が固くなっていくみたいだ。ちょっと、緊張してる。
ノックをすると、中からいつもより少し掠れた声が聞こえた。

「おじゃまします。」
「ああ、西谷。ごめんな、わざわざ来てもらって。」
「いえ、そんな。旭さん、調子どうっすか?」
「うん、もうだいぶマシ。明日一日寝てたら、治ると思う。」

思ったより、元気そうな旭さんを見てほっとする。ゆるいスウェット姿は、いつもの落ちついた旭さんの服装とギャップがあってちょっと可愛い。

「これ、お見舞いです。熱あるなら、冷たいのいいかなって思って。ガリガリ君です!」
「はは、西谷らしいなあ。」

あ、笑った。こんな笑顔見るのも、久々かも。
つられて、俺も笑った。さっきまでの緊張が、少しほぐれた気がした。
それから、今日の部活のこととか、たわいない話をした。最初はぎこちなかった二人の空気も、知らない間に随分と自然になっていた。
俺がくだらない話をしても、旭さんはいつも笑って聞いてくれる。
旭さんの目は、とても穏やかで、包み込まれてるみたいな安心感があった。
コートの上で闘ってる時の、強い旭さんもかっこいいし尊敬してるけど、こうした普段の旭さんを想う気持ちは、それよりもっと柔らかい気持ちだ。
穏やかな気持ち、好きだなって、しみじみするような。やかましいと評される自分には似合わない気もするけど、本当のことだった。

「なんか、懐かしい感じだな。」

話の切れ間に、少し遠くを見るみたいに旭さんが言う。
「懐かしい」の正体はおのずと分かって、ああ同じ気持ちだったんだと少し嬉しくなった。

「前はこうして、よく遊びに来てましたよね。」
「うん、夏休みとか、しょっちゅう来てたね。」

あのときの西谷はどーだ、いやいや旭さんだって。そんな風に、共有した時間を思い出していく。
たくさんの思い出が、二人の間にはある。まだ、これからだって、たくさん作っていける。
こうしていると、錯覚しそうになる。期待したくなる。旭さんも、俺のこと、少しは特別な意味で好きなんじゃないかって。
旭さんが欲しい。旭さんの気持ちも、視線も、全部。俺のものするには、あとはどうしたらいい?ねえ、旭さん。

「旭さん、あの――」
「旭、西谷くん、飲み物持ってきたんだけど。」
「!は、はい。」

俺の声にかぶさるように、おばさんがドアの向こうから声をかけてきた。
びっくりした俺は、思わずがばっと立ちあがる。そのまま、ベッドに腰掛けてる旭さんを制止して、ドアを開けた。

「これね、貰い物なんだけど。一つ余ってたから、西谷くん食べてね。」
「え、いいんですか?」
「いいのいいの。旭はどうせ、体調悪くてケーキなんて食べられないから。」

ちら、と旭さんを伺えば、苦笑しながら、貰っておいて、と言う。
ありがとうございます!とお礼を言って、ケーキと紅茶の乗ったお盆を受け取った。

「俺だけ食べるのって、なんか悪い気がします。」
「いいよ、気にしないで。母さんも、西谷に食べてほしいだけなんだから。」

母さん、西谷のこと気に入ってるし、前だって息子の俺より西谷のが可愛いって言っててさ。
そんな旭さんの言葉に笑いながら、俺はお盆からケーキやカップを下ろして、丸い背の低い机に並べていく。
旭さんもベッドから降りて、机についた。さっきよりも近づいた距離に、こっそりどきどきする。
緊張して少し硬くなった俺に、旭さんは「ホントに気にしないで、食べていいよ?」なんて促す。
あ、全然分かってない。旭さんは、自分が絡むとどうにも鈍い気がする。なんか天然というか。
でもそうかと思ったら、この前みたいに突然抱きしめたりするんだ。
振りまわされているこっちの身にもなってほしい。どきどきさせられたり、肩すかしをくらったり。

「・・・旭さんって、ずりィ。」
「ええ?」
「なんでもないっす、いただきます!」

どういうこと?なんて疑問符を頭から出してる旭さんの言葉には返事はしないで、嬉しいような、悔しいような、そんな気持ちをごまかすみたいにケーキをすくう。
ケーキが半分くらいになったところで、旭さんが何やらこっちをじっと見ていた。
なんですか?という意味を込めて見返せば、ふっとおかしそうに笑った。

「西谷、クリームついてるよ。」

自分の左頬を指差しながら、微笑んでいる。慌てて自分の頬を指先で撫でるけど、クリームはついていない。

「違う違う、こっち。」

そう言って、旭さんは苦笑しながら俺の頬に右手を伸ばした。それは本当に自然で、きっと意識なんかしてないんだろうって思ったけど。
俺の方は、そうはいかなかった。頬と唇の間、その場所に旭さんの指が触れたとき、俺の心臓はどくりと跳ねた。

――旭さんが、俺に触れてる。

目の前が、少し揺らめく。なんだろう、嬉しいような怖いような、どうにもできない感情が胸の奥で燻っている。
目の前の旭さんは、俺の目を見た瞬間、さっきまで浮かべていた微笑みをすっかり消して、ただただびっくりしたような顔で固まっている。
ぎしり、と手が止まる。触れた指先は、なんだか熱を持っているみたいで、そこばかりに神経が集中する。

「あ、その・・・。」

手がゆっくり引っ込められそうになって、思わずそれが離れないように、手のひらを重ねた。
びくっと旭さんの手が震えたけど、そんなのお構いなしに、その手を頬にぎゅっと押し当てる。
瞳を閉じれば、一滴、涙がこぼれて頬を伝う。生クリームと混ざって変な感じがするけれど、それももういい。ただ、旭さんの熱を離したくなかった。

「西谷、その、手・・・。」
「・・・。」
「に、西谷。な、離して。」

真っ赤になって、声を震わせて懇願する旭さんの顔を見て、仕方なくその拘束をゆるめた。
旭さんは、手を自分の胸元に引きよせて、ぎゅうっと瞳を閉じた。
それを見て、やっちゃったなと思ったけど、それも仕方ないと思う。
だって、この衝動を抑える術なんか、俺は持ってないんだ。そんな余裕、どこにだってない。

「ごめん、西谷。」
「?何がですか。」
「ごめん・・・。」

謝罪を繰り返す旭さんの顔を覗きこむように見上げる。

「なんで、謝るんですか?謝るのは、手を離さなかった俺でしょ?」
「違う、よ。」
「じゃあ、なんで――」
「俺は!」

強く、言葉を遮られた。一気に不安が押し寄せるけど、必死で俯く旭さんを見つめ返す。ここで、目を逸らしたら、いけない気がした。

「俺は、ずっと、考えてたんだ。でも、やっぱり自分の気持ちが分からなくて・・・。」
「分かってますよ。だから、時間が欲しいって、言ったんでしょう?俺、待ちますよ。」
「でも、こんな風に、曖昧な態度でいたずらに西谷に期待させたりしたくないんだ。もし、やっぱり違うって、傷つけたりしたらと思うと、怖くて。」

あの子みたいに、西谷を、傷つけたくない。

旭さんの顔が、苦しそうに歪む。あの子っていうのは、きっとあの彼女だ。
旭さんの口から、まだあの人のことが出たことに、旭さんの中にあの人がいることに、自分の中で泥ついた思いが頭を擡げる。
自分を責めるみたいに、旭さんは何度もごめんと繰り返した。もうこれ以上聞きたくないと、俺は言葉を重ねて問う。

「旭さん、それは、この前の返事ってことですか・・・?」
「・・・」
「俺、諦めが悪いんです。そんな理由じゃ、諦めきれないです。」
「西谷・・・」
「もし後で傷つくとしても、俺は旭さんの一番近くにいられるなら、それでいいです。」

旭さんに、なんとかこの気持ちの欠片でも届いてほしくて、訴えかけるみたいに言い募った。
傷つくかもなんて、そんな心配はいらない。そうならないように、俺は全力で頑張るだけだ。

だって、今までの旭さんの言葉や仕草の一つひとつに、俺への気持ちが全くないなんて、そんなこと信じたくない。
特別なものが、何一つないなんて、そんなこと。
怯むような、泣きそうな旭さんの目が伏せられる。ぎゅっと眉根を寄せて、耐えるみたいに。
少しの沈黙の後、大きく息を吐いて、こちらを向いた旭さんは「先輩の東峰旭」の顔を貼り付けていた。

「西谷、俺、部活頑張るから。西谷に、これからもエースだって思ってもらえるように。」
「・・・旭さん?」
「いつも、スパイクを打つ時、背中を任せるのは西谷だよ。ずっと、信頼してる――」
「旭さん!」

がっと目の前にあった胸ぐらを掴んだ。拳には、真っ白になるくらい力がこもる。
悔しくて、泣きたくなる。どうして今、そんなことを言うんだよ。
近くにいたいって言ったのは、チームメイトや後輩としてじゃない。そんなこと、旭さんだって分かってるはずだ。
俺の一番奥にある、一番大事な気持ち。それを全部なかったことにするような、そんな言い方ないだろう。
ぎりぎりと睨みつける俺に、旭さんは少し瞳を揺るがせたけれど、先輩の顔を崩さなかった。
そして、とどめの一言を、はっきりと口にした。

「西谷と、これからもバレーを一緒にしたいよ。・・・今までみたいに、これからも、ずっと。」

そっと、壊れ物を扱うみたいに、旭さんの手が俺の指を外していく。
一つひとつ、丁寧に。その仕草が、こうして触れるのは最後だと言ってるみたいだ。
最後の小指に触れた手が、離れていく。ぱたりと落ちた俺の右手は、もうすっかり力をなくしていた。

「・・・あさひ、さん。俺は、旭さんが好きです。旭さんが欲しいし、旭さんの特別に、なりたいんです。」

目を閉じて、これまでのことを思い出した。
クリスマスに、泣いて告白した俺を抱きしめてくれたときの温もり。
俺を見つめてくれる、穏やかで優しい、慈しむみたいな瞳。
傷つけたくないって、苦しそうに言い募った、泣き出しそうな表情。

「旭さんは、俺のこと、今まで・・・ちょっとでも、好きだって、思ってくれましたか・・・?」

――そのどこにも、特別なものはなかったんですか?

それはあまりに弱々しくて、か細い声になってしまった。自分の中で、こんな声が出るなんて思わないくらいに。
でも、目の前の旭さんには、しっかりと届いている。息をのむのが伝わってくる。

「・・・っ。」

旭さんは、何も言わなかった。けど、ぐしゃりと表情を崩して、その目に薄く張った水の膜は、決壊していた。
ぽろぽろと、こぼれた滴が俺の手に落ちた。さっきまで保っていた先輩の顔も、すっかりなくなってしまった。

――旭さんは、ずるいなあ。

こんな風に突き放されて、泣きたいのはこっちなのに。最後の最後に、そんな顔を見せるなんて。
そんな顔をされたら、俺はまた、探したくなる。期待したくなる。もしかしたら、旭さんの心の中に、俺への想いがあるんじゃないかって。

――そんなの、あるわけないって、こんなに思い知らされてるのに。

すくっと立ちあがり、無言で荷物をまとめた。その間も、旭さんの視線は俺に注がれている。
鞄を肩にひっかけて、ドアノブに手をかけた。

「明後日の、午前0時。学校近くの駅で、待ってます。」
「に、西谷・・・」

言い逃げみたいに、旭さんの声を振り切って、部屋のドアを開ける。
階段を一気に下りて、玄関から飛び出した。外は厚い雲が、空を覆っている。
ただがむしゃらに、走りだす。もうこの景色を見ることは、ないかもしれないけど。

同じ人に、二回も失恋するなんて。

好きだと気付いた時も、その気持ちを伝えた今も。旭さんは結局いつだって、俺を後輩以上には見てくれなかった。
こんなの、もうダメだって、普通なら思う。いくら俺だって、諦めなきゃいけないって分かる。
こんなに苦しい恋なら、早く忘れてしまえればって思うのに。

でも、大きくなりすぎた想いに、どう決着をつけたらいいのか分からないんだ。

明日、旭さんは来ないかもしれない。
諦めの悪い俺に呆れたかもしれないし、もし明日会えても、今よりもっと、傷つくかもしれないけど。

「次で、最後、だから。今度こそ、ちゃんと・・・」

どうしたらいいのかなんて、分からないけど。ちゃんと、諦めるから。諦められるように、頑張るから。その準備をさせてほしい。
それが終わったら、旭さんが望むみたいに、もとの関係に戻ろう。
ただエースとして、チームメイトとして、先輩として旭さんを見ていたあの時みたいに。
時の流れに身を任せれば、この失恋の傷も癒えるんだろう。時間はかかっても今まで通りに戻っていける、戻ってみせるから。

今は、まだ。もう少しだけ、好きでいさせてください、旭さん。

**********************************************
「好き」には一体どれだけの種類があるというんだろう。

とりあえず、これ書きながら旭さんを何度校舎裏に呼び出したくなったか分かりません・・・西谷くんが不憫すぎて。
でも私はハッピーエンド至上主義です。そこだけは主張しておきます。
次でいよいよラストです、もう少しだけ、彼の恋にお付き合いください。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました!

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