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ずっと完結できてなかった長編のラストです・・・!
お待ち頂いていた方がいたら申し訳ないです!
最後、四話目の冬です。季節は巡り二人の一年も終わりを迎えます。
ということで、以下に、ご注意を。
※旭さん大学一年、西谷くん高校三年の冬です。旭さんは東京の大学に進学してます。
※二人は付き合ってます、遠恋ものです。
大丈夫という方は、追記からお願いします!
最後、四話目の冬です。季節は巡り二人の一年も終わりを迎えます。
ということで、以下に、ご注意を。
※旭さん大学一年、西谷くん高校三年の冬です。旭さんは東京の大学に進学してます。
※二人は付き合ってます、遠恋ものです。
大丈夫という方は、追記からお願いします!
********************************
窓から見える景色は、いつだって同じだ。小学生の頃、一人部屋をもらってからこの勉強机の配置は変わっていない。
今日は鉛色の空から白い雪がはらはらととめどなく降っている。下に積もったそれは、また一層厚くなるんだろう。
ベッドの上に放り出していた携帯をいじると、メールが一件届いていた。
メールが来るたび、どきりとする。けれど、すぐに違うに決まっていると頭を振った。
表示された差出人の名前を見れば、そこにあるのはやはり思い描いた人物ではない。
「今日で、二週間か。」
新規作成のメール画面に、短い文章を打つ。
それはたった一言だけれど、打っては消して、打っては消してを繰り返す。
結局、その一文は書けないまま、電源ボタンを押した。
「内容を破棄しますか?」の問にイエスと答える。待ち受け画面に切り替わった。
待ち受けにしたバレー部で撮った写真の中の自分は、ひどく幸せそうに笑っていた。隣には、あの人がいる。
携帯をもう一度、ベッドに向かって放りだす。
メールは、送らなかった。否、送れない理由があるのだ。
「旭さんの、バカ。」
何度も打っては消した一文を、心の中でつぶやいた。
――早く、旭さんに会いたいです。
メールを送るのはもちろん、口にもできない。声に、音にしてしまえば、心が揺れる。
それは弱音を吐くみたいだと思った。
幸せのカタチ
act4.冬
最後に旭さんに会ったのは、元旦の夜だった。
30日まで冬期講習があったので、一日フリーになるのは、大晦日からだった。
今年最後の一日、今日は息抜きと決め込んで、二人で朝から遊んでいた。
仙台まで出てウィンドウショッピングをしたり、旭さんがタウン誌でチェックしていたイルミネーションを見に行ったりした。
あっという間に夜になって、二人で二年前と同じように、電車に乗り込む。
窓に映る景色も、あのときと変わらない。揺れる電車が目的地に着く頃には、海が見えていた。
駅に降り立てば、やはり潮の匂いがして、旭さんは首をすくめるみたいにマフラーに顔をうずめていた。
神社に行って、初詣をする。あのときをなぞるみたいに、甘酒を飲んだり、たこ焼きを買ったりして、「同じだね」と笑い合った。
去年は旭さんたち三年の合格祈願をするといってバレー部で新年を迎えた。だから、こうやって二人で年越しをするのは二年ぶりになる。
「なんか、懐かしいですよね。」
「そうだな、ここも全然変わってない。相変わらず人いないし。」
初詣を済ませて、夜が明ける少し前に海に出た。あのときと同じ、俺のとっておきの場所。
あの頃と違うのは、ここまで手を繋いで歩いてきたことだ。旭さんは、前は拒絶されるんじゃないかと怖くて手を取れなかったと笑っていた。
真っ黒の海を見ながら、並んで立つ。強い海風が前髪をめくって、冷たい空気にツンと鼻が痛くなった。
無意識に自分の腕をさすった俺を、「寒いから」と一つ言い訳をして、旭さんは後ろから包み込むように腕を回した。
回されたがっしりとした腕に自分のそれを添える。もたれた胸の辺りにちょうど自分の耳があって、とくんとくんと心臓の音が心地よく響く。
「初詣は、ちゃんと合格祈願した?」
「俺は受かるぞって宣言しましたよ、神様に。」
自信満々にそう言えば、西谷らしいなと旭さんは笑う。低い柔らかい声はとても優しくて落ち着く。
旭さんとの、真綿でくるまれたみたいな優しい時間。身を切るような寒さのはずなのに、気にならないくらい、心は温かった。
ほう、とゆるく息を吐いたところで、旭さんが回した手に力を込めた。
「西谷、俺、ずっと考えてたんだけどさ・・・」
「はい?」
「俺たち、これから、しばらく距離をおかないか。」
「・・・え?」
びゅう、とまた一つ風が吹いた。頬に刺さるみたいな冷たさだった。
それは一気に胸の中までも駆け抜けたようだった。さあっと温度の下がっていく感覚。
さっきまでの緩やかでふわふわした空気は一変し、一気に嫌な感じに心拍数が上がっていく。
旭さんの腕は変わらず自分を包んでいるのに、それが逃げられないように拘束されているような錯覚に陥った。
どっちにしても、身体はぴしりと固まってすっかり強張っているから、逃げ出すなんてできないのだけど。
なんで、どうしてという言葉がぐるぐると頭の中を巡る。
距離をおくって、つまり、そういうことか。今まで耐えてきたのはなんだったのだ。
分からない。ねえ旭さん、どういうつもりなの?
俺が何も言わないので、そっと旭さんは名前を呼びながら、上から覗きこむようにこちらの様子を伺ってきた。
それに合わせて、こちらも顔を上げて視線を合わせる。そうすると、伏し目がちに思い悩んだような表情は途端に様子を変えて、ひどく慌てだした。
「あ、違うよ!?その、距離をおくっていうのは、別れるとかじゃなくて!その、西谷の受験が終わるまでってことで!」
俺はそんなに、不安そうな顔をしていたんだろうか。旭さんは、小さい子をどうあやせばいいのか分からないみたいに、回した腕で俺の身体をせわしなく擦った。
ごめん、まぎらわしかったよな!言い方もっと考えたらよかった。
それがあまりに必死な様子で、すっかり八の字になった情けない旭さんの眉がなんだかおかしい。
旭さんが俺を手放そうと思ってるのではないことははっきり伝わってきて、気持ちも少し落ちついてきた。
それでも、旭さんの提案に納得ができない俺は、疑問を口にする。
「でも、なんでですか?距離をおくも何も、もともと遠距離だし、頻繁に会えないのに。」
「それは、そうだけど。・・・電話とか、メールとかも、さ。俺、心配でついしちゃいそうだから。」
そうやって決めておけば、我慢できるかなと思って。西谷の勉強のジャマをしたくないんだ。
そんなことを言う旭さんに、今度は思いっきり呆れたようにため息をつきたくなった。いや、むしろ吐いた、盛大に。
だって、その提案はとても的外れだ。俺は旭さんから連絡がくることが、勉強のジャマになるなんて思わないし、むしろ連絡がないことの方が気になりそうだ。
「俺、今まで通りで大丈夫です。そんなことで落ちたりすると思います?」
「でも・・・願掛けっていうか、俺、西谷に絶対受かってほしいし・・・」
呆れを隠そうとしない俺に対するその人の返事は、言葉を詰まらせながらも、どこか決意したような響きだった。
思ったより、本気みたいだ。これは、譲ってくれそうにない気がする。
旭さんは、へなちょこなんて言われるけど、その実はとても頑固だ。譲れないものがあるときの旭さんは、今みたいな目をする。
強い光を宿すんだ。そして俺は、悔しいけれどこの瞳に弱い。優しい色の中にある、揺らがない光が好きだった。
だって、旭さんが一番かっこいいときの瞳だから。あの最高にかっこいいスパイクを打つときの、俺のエースの瞳だから。
「旭さんは、それでいいんスか。」
「うん。そりゃ、寂しいけど、西谷の受験の方が大事だもん。」
ぐっと拳を握る姿に、これはもうどうしようもないと悟った。
俺からすれば的外れな願掛けだが、この人からしたら何より他ならぬ俺のためなのだ。自分を自制するためという理由は少し情けないけど。
そう思えば、これ以上は何も言えない。はあ、ともう一度大きくため息を吐いた。仕方ない、俺は結局、旭さんに甘い。
「・・・まあ、旭さんがそこまで言うなら、それでいいですよ。」
「なんか、スミマセン。」
「いいです、俺もその願掛けに乗っかります。せいぜい一ヶ月半くらいですしね・・・それからは。」
ずっと一緒に、いられるはずだから。
それはなんだか恥ずかしくて、更に言えば気持ちが重すぎるような気がして言わないでいたけれど、旭さんは何か感じたんだろう。
耳元に旭さんの唇が寄せられた。囁くような吐息がかかって、ふるりと身体が揺れる。
甘い声は、耳から脳、身体中、全部に沁み渡るように響く。この人の声に、勝てそうにない。
「東京で、待ってるよ。」
それから一カ月。二月の寒い冬の朝、俺は東京で電車に揺られていた。
というのも、その日は大学の受験日だったからだ。
前日に東京入りをした俺は、スガさんの家で泊めてもらっていた。
「西谷、忘れものない?受験票とか、大丈夫?」
「ばっちりっすよ!昨日も今朝も確認しました。」
電車に乗る少し前、そう言いながらスガさんのアパートの玄関のドアを開けると、そのすぐ横の壁にもたれた人がいた。
え、と見上げると、その人はこちらを向いて「おはよう」と言った。
「わ、大地さんも来てくれたんですか!」
そう、そこにいたのは去年まで一緒にバレーをしていた一つ年上の頼もしい主将だった。
「こっちで受験するって聞いたから、激励しようと思ってな。」
いつも通りの快活な笑顔をにこっと向けて、大地さんがくしゃりと頭を撫でた。さすがに面接もあるため今日は髪を下ろしているので、セットが崩れる心配はない。
ぐしゃりと髪をかき混ぜる大きな手に、少しだけ旭さんを思い出して、なんだかほっとする。
やるだけやった、と意気込んでここまで来た。けれどやはり心の奥にある少しの不安が、頭を擡げる。
だから、見知った二人の先輩がここにいてくれることが嬉しかった。
「へへ、ありがとうございます。」
「旭もバカだよな。願掛けなんだって?会わないの。」
「そうなんスよ。正月から全然連絡取ってなくて。」
「はは、旭ってそういうの好きだよね。占いとかも信じちゃうタイプでさ。」
しょーがないと呆れたように言う二人の声には、どこか優しい色が含まれていた。
一つ上の三人は、とても仲が良い。それは高校のときからで、その三人の関係が俺はすごく好きだった。
俺の一番大好きな人を、俺の大事な人たちが大切に思ってる。それはとても、嬉しいことだ。
「じゃあ、いってきます。」
ありがとうございました、と深く礼をした俺に、スガさんが白い封筒を差し出した。
手のひらより少し大きいそれに、首をかしげる。
「なんすか、これ?」
「開けてみ。」
ガサガサと封筒の中に手を突っ込むと、小さなお守りが入っていた。橙色のそれは、俺のユニフォームの色とよく似ている。
「学業成就」と描かれたそれと一緒に入っていた二つ折りのメモを開く。そこに並ぶ文字に、だんだん頬が熱くなるのが分かった。
「・・・あの、伝言、お願いできますか?」
「うん。」
「絶対合格します、って。」
「はは、分かった。」
二人に手を振って、おれは歩きだした。さっきのお守りとメモは、ポケットの中。
メモには、お決まりの激励の言葉ともう一つ。
その一言は、不安も全部吹き飛ばすみたいに元気をくれた。俺ってホント、しょうがないんだ。
ちょっと離れてみたって、全然変わらない。俺のド真ん中にいる旭さんは揺らがないんだって思うと、なんだか嬉しいようなくすぐったいような気持ちになった。
――俺、スタメンになったよ。早く、西谷とバレーしたい。
そして滞りなく終わった試験からさらに半月。今日はついに、合格発表の日だ。
受験の日と同じく、今度も一人で、校門をくぐった。旭さんは、やっぱり隣にいない。
もう試験終わってるし、会おうがどうしようが結果には影響なんかないんだけど、合格するまでが旭さんの「願掛け」らしい。
まあ、今更どうこう言う気もないので、俺も強く会いたいとは申し出なかった。
宮城に帰ってからは、一足先に進路が決まっていた龍を呼び出して、バレー部に入り浸っていた。
久々に思い切り身体を動かすのは気持ちよくて、少し鈍ってしまった感覚を取り戻すみたいに、ひたすらにボールを追いかけた。
ボールを追う中に、いつだって旭さんの姿がイメージされていた。もう一度、あの背中を守りたい。
旭さんがくれたあのメモは、財布の中に入れている。なんか女子みたいだって恥ずかしい気もするけど、あの一言はそれくらい嬉しかった。
校内をしばらく歩いたところで、校舎の脇にある掲示板には人だかりができていた。色んな表情の人がいて、これで明暗が分かれるのかと改めて感じる。
一歩近づくたび、少しずつ心臓の音が大きくなる。受験番号を頭の中で復唱しながら、人波を掻きわけてその前に立つ。
たくさん並ぶ4ケタの番号の中に、自分のものを探した。「ある、ある」と言い聞かせるように、端から番号を目で追う。心臓が痛い。
「・・・あった。」
思わず口から零れた言葉を、もう一度頭の中で繰り返した。あった、俺の番号。
握りしめていた受験票と掲示板を交互にもう一度見て確認する。やっぱり同じ番号がそこにあった。
合格、した。
「よ・・・っしゃー!」
やった。これで、これで――旭さんと、バレーできる!
真っ先に浮かんだのは、何度もイメージしていたコートを飛ぶ背中だった。
振り上げたしなやかでたくましい腕、目の前のブロックなんて関係ないみたいに弾き飛ばされたボール。
あの背中に焦れて焦れて、この一年を過ごしたんだ。やっと、追いつける。隣を歩くことができる。
「あ、電話、電話・・・」
最後に会った時、合格発表を確認したら連絡がほしいと言っていた。きっと俺以上に心配しているに違いない。
電話帳の画面を開き、一番上にある「旭さん」の携帯番号を表示する。そして通話ボタンを押す直前、指を止めた。
旭さんの家まで、ここから電車で10分と掛からない。どうせなら、直接伝えたい。
想像の中で、旭さんがびっくりしてほっとして、それからうんと嬉しそうに笑っていた。
これを直にこの目で見たい。声だけじゃなくて、目の前で。触れられる距離で。
「おめでとう」を、あの腕の中で聞きたい。
そこまで考えたら、あとは簡単なことだった。俺は悲喜こもごもな掲示板の前から抜け出して、走りだした。
駅に飛び込んで、改札を抜ける。揺られている少しの時間ももどかしくて、何度も携帯を手にしそうになっては我慢した。
最寄り駅に降り立てば、やっぱり気持ちは急かされてしまって、歩を進めるのが気がつけば掛け足になっていた。
どんどん流れていく景色の中、目指すのは川沿いに並ぶ、まだ咲かない桜並木の向こう側。小さな二階建てのアパートは、すぐそこだった。
軽く息を切らせながら、目の前の建物を仰ぎ見る。二階の一番端の部屋。そこを目指して、カンカンと音を鳴らしながら階段を上っていく。
気持ちが急いて、早足になりながら、一歩一歩を踏みしめていく。
扉の前に立って、少し上がった息を整えるように深呼吸した。
いつものようにチャイムは鳴らさない。そっとドアノブをひねってみたら、ガチャンと音がしただけで引くことはできなかった。
やっぱり、と心の中で思う。旭さんは一人でいるときもいつもちゃんと施錠している。
――いきなり俺が現れたら、旭さんびっくりするだろうな。
驚いた旭さんの顔を想像して、一人でにやにやしてしまう。鞄の内ポケットから、バレーボールのストラップがついた鍵を取りだした。
夏休みに、旭さんからもらった合鍵。結局あれから使うことはなくて、今日が初めてだ。
なんだか照れくさい。そう思いながら、鍵穴にそれを差し込んだ。ちょっと力を込めたら、カチャリと錠の外れる音がした。
「旭さ――」
扉を開く。その瞬間、俺の頭はフリーズした。
「――え?」
――そこには、自分の思い描いていたものは何一つなかった。
扉の向こうにあるはずのものは、俺の描いていたものは、どこにもなかった。
玄関に並んでいた大きな靴も、下駄箱も、入ってすぐのキッチンの調理用具も。
食器や炊飯器を置いていたチェストも、電子レンジも冷蔵庫も。文字通り、何もないのだ。
奥の部屋へと続く扉も開け放たれていて、カーペットもタンスもなかった。カーテンさえもなくて、窓から差し込む光は遮られることもなく床を照らした。
差し込む光に照らされた微かな埃がキラキラと反射している。それがどこまでも現実味を失わせていた。
がらんどうのそこには、人が住んでいる気配は微塵もない。ただただ、空っぽだった。
込み上げてくる不安と緊張と、それに伴って早くなる鼓動が俺を支配した。
何も考えられない。目の前の事実を受け入れられない。頭が真っ白になるって、きっとこういうことだ。
さっきまでの浮足立った気持ちなんかもうどこにもなくて、足は知らぬ間に震えていて今にも座り込んでしまいそうだ。
扉を閉じることもできないまま、茫然と立ち尽くすしか術がない。
「あさひ、さん。」
震える声で、名前を呼ぶ。一気に目の前が揺らめく。何もないその部屋が滲んでいく。
どうして、どこに。どこにいるの、旭さん。
旭さん、旭さん、旭さ――
「あれ、西谷?」
ばっと声に反射のように振り返れば、そこには探していた姿があった。
ゆるくまとめた長髪と、垂れた目尻と、丸くなった瞳。逞しい胸板と、それを隠すみたいな柔らかいクリーム色のカーディガン。
――旭、さんだ。俺の知ってる、旭さんだ。
なんでここに、なんて言いだそうとした旭さんのびっくりした表情は、みるみるうちに焦りの色を帯びた。
「に、ににに西谷!どうしたの!?な、泣かないで、大丈夫!?」
「は!?泣くって・・・」
何を言ってるんだと思うと同時に、慌てて近づいた旭さんの指先が自分の目元に触れる。そこで俺は、自分の瞳から滴が零れていることに気付いた。
恥ずかしくて、かあっと頬に熱が集まる。隠すようにして、旭さんの手を押しのけて自分のもので押さえつけた。
「ち、違っこれは・・・!」
違うと言っても、何が違うのかも分からなくて、それ以上は言葉に詰まる。まだ、混乱しているのだ。
空っぽの部屋、誰もいない部屋、ここにいる旭さん。うまく結び付かない。
訳が分からないまま、ぼろぼろと涙はとめどなく溢れてしまうのでなんとか止めようと乱暴に擦った。
そんな俺の手を、旭さんはそっと制した。赤くなるよ、と言いながら瞼に優しく唇が触れる。
「なに、」
ちゅ、ともう一度降ってくるキスに慌てふためく。ここ、外だよな?家の前だよな?
何してんの、旭さん!
「ちょ、旭さん!」
「あ、ごめん・・・つい。」
つい、じゃねえよ。真っ赤になった俺の頬を大きな手が撫でる。「よかった、泣きやんで。」なんて嬉しそうに笑うので思わず突き飛ばしてしまった。
たたらを踏みながら、痛いなんて言ってても知らない。
誰のせいだ、誰の!
「旭さん、これ、どういうことですか?」
開け放した扉の方を指さすと、旭さんは頭を掻きながら「あー・・・」と視線をさまよわせた。はっきりしない。
「それは、後でちゃんと説明するから。あの、それより、結果・・・」
気まずそうに旭さんが尋ねてくる。
俺はふんっと胸を張って、旭さんの目の前でブイサインを作ってみせた。
「ばっちり合格です!これで、春から俺も旭さんと同じ学校です!」
「そっか・・・よかった~・・・!」
へたへたとしゃがみこんだ旭さんは、膝にペタリと頬をつけて脱力していた。本当に、心配してくれていたんだろう。
俺も旭さんに倣うように腰を下ろす。目の前にある旭さんのつむじが、なんだかかわいくってそこに手のひらを乗せた。
よしよしをするみたい、少し癖のある髪を撫でる。
「俺、絶対合格するって言ったじゃないですか。」
「そりゃ、俺だって信じてたけどさ。やっぱり、心配ってのは尽きないもんだよ。」
「安心しました?」
「すっごく。・・・本当に、おめでとう、西谷。」
「ありがとうございます。」
旭さんが顔を上げて、つむじは見えなくなった。代わりに、優しく下がった眦と柔らかい笑顔があった。
ゆっくり近づいてくるそれを、今度は突き飛ばしたりしなかった。ほんの少し、触れるだけのキス。
それから、ぎゅうっと首に腕を回されて、抱きしめられた。旭さんの肩口に顔をうずめるようにしながら、俺はほうっと息を吐く。
このぬくもりが欲しかったのだ。くぐもった「おめでとう」に、胸の中にあたたかいものが広がる。
「やっと、西谷に触れられる。」
「さっき、ちゅーしたじゃないですか。」
フライングですねとからかったら、「西谷泣くから焦ったんだよ」と口を尖らせた。
そんな仕草がかわいいなんて言ったら、この人はどんな顔をするかな。
照れるかもしれないし、いつもみたいに困った笑顔を向けるかもしれない。どちらでも、すごく幸せな想像だ。
「あの、さ・・・西谷に、ついてきてほしいところがあるんだ。一緒に来てくれる?」
回した腕を緩めながら、こちらを覗きこむみたいに旭さんが言った。
空気が変わった。随分と真面目な顔つきで、緊張をはらんだ視線が寄こされている。
現状を思うとやっぱり良く分からないけど、旭さんの真剣さにとりあえずコクリと一つ頷くと、旭さんはほうっと胸をなでおろしたようだった。
踵を返して、一歩前に出た旭さんが手袋を外した右手を差し出した。それにそっと自分の左の手のひらを重ねる。
カンカンと下りる階段の音が二つ分響いていて、冬の空気を揺らしている。
手袋を外したばかりの、自分より少し高い手の温度に、ああこの人の隣にいるんだなと実感した。
連れられてきたのは、さっきまでいたアパートからそう遠くない場所だった。
同じように二階建てのそれは、赤い屋根でそれぞれの階にドアが四つずつ並んでいる。
「アパート・・・?」
旭さんは俺の呟きに返事はせずに、階段を上って一番奥の部屋の前に来た。
カギを取りだしたのを見て、俺はやっとさっきの空っぽの部屋とここが繋がった。
「どうぞ。」
旭さんに促されて入ったその部屋は、思ったよりずっと広かった。
前の家と同じように、入ってすぐにキッチンと風呂、トイレがある。
仕切りになっているドアを開けば、大きめの部屋があり、その奥には寝室だろうか、もう一つベッドを置いてある部屋があった。
部屋の中はというと、前の家で見たものと同じテレビやチェストが置いてあるけれど、無造作に積まれた段ボールが床を占拠していた。
寝起きは出来ないことはないが、引っ越してきたばかり、という印象だった。
「旭さん、ここに引っ越してたんですか?」
「うん、手続きは昨日済ませてたんだけど、ちょっとバタバタしてて。」
そうだったんだ。そんなこと、全く知らなかった。
まあ、連絡を絶っていたのだから当然と言えば当然なのだが。
しかし、どうして引越しをしたのだろう。まだあの家は、一年しか住んでいない。
学校に通うのにも、前に聞いたバイト先に通うのにも、条件が悪いとは思えなかった。何か、トラブルでもあったのだろうか。
「なんで、このタイミングで引越しなんですか?」
「それは、その・・・」
口ごもる旭さんは、額にうっすらと汗を掻いていた。
口を開いては閉じ、何かを言おうとするが音にはならない。静寂した部屋の中は、カチカチと時間を刻む時計の針の音だけだ。
二人、部屋の真ん中に立ちつくしていた。窓からは午後の柔らかい光が部屋に差し込んでいて、旭さんの赤茶色の髪が日に透けている。
頭の先から、つま先まで。全てを脳に焼き付けていくみたいに見つめているのに、視線は合わない。
必死に言葉を探している旭さんは、すっかり眉を八の字にしている。なんだか、つらそうにさえ見えた。
「あの、別に言いにくい理由なら・・・」
「違う、そうじゃなくて!・・・勇気が、いるんだ。」
――勇気?
「何度も、頭の中で練習したのにな。・・・いざとなると、言葉って出ないんだ。」
はは、といつものちょっと情けない笑顔を顔に貼り付けて、旭さんがこっちを見る。
それから、目の色がゆっくりと静かなものになって、こちらを捉えた。旭さんの緊張が、移ったみたいだ。俺も動けなくて、心臓がうるさい。
ピンと張った空気を破ったのは、旭さんだった。
ポケットの中に手を入れて、そっと拳を差し出してくる。
俺はそれに従うように、右手の手のひらを上にして広げた。そこに置かれたのは、銀色のカギ。
前にもらったものと少し違うソレに、その意味を考えて――自分の頬に朱が差すのが分かった。
「旭さん、これ・・・」
「待って。ちゃんと、言うから。・・・聞いてほしいんだ。」
一つ、大きく息を吸った旭さんを穴があきそうなほどに見つめていた。
「オレ、この一年間、西谷と離れて・・・不安な時も、会えなくてつらい時もあったけど、気持ちは全然変わらなかった。それどころか、西谷と離れている間に、どんなに西谷が好きだったか思い知らされた。恋しいって、きっとこういう気持ちなんだって思った。」
そう続ける旭さんに、俺は心の中で頷いた。俺も同じだ。寂しくて、恋しくて、でもそれ以上にずっとずっと旭さんを好きだった。
たくさんの好きが、会えない間も身体の中に積もっていた。
でも、言わない。旭さんの言葉に、黙って耳を傾ける。
これはきっと、最後まで黙って聞くべきなんだ。
そっと、手が肩に触れる。それが首筋を通って、頬に触れた。
動けないままのオレは、ただ旭さんを見つめた。まっすぐ、まっすぐに。
旭さんもまた、こっちを見ていた。視線が交錯して、近すぎて輪郭がぼやけるほどに、お互いしか映していない。
静かに、揺るがずに。強い意志を湛えた瞳が俺を捉えてることに、もう胸がいっぱいで苦しい。
「これからの西谷の時間を、俺にくれないか。見つめる先に、西谷の姿があってほしい。」
これから先、ずっとずっと、お前と一緒に歩いていきたいんだ。
その言葉に、目を見開いた。まん丸になった目から見える視界は、だんだんと揺らめきだす。
揺れる視界をクリアにしたくて、親指で下瞼を擦る。ほんの少し、水滴が指先についていた。
旭さんの顔が滲んだままでは嫌だった。一瞬だって、見逃したくなかった。旭さんの全てを、見ていたかった。
そうだ、ずっと――俺は、この人を見ていたい。そしてこの人の見つめる先に、この人の世界の中にいたい。
「・・・しょうがないっすね!一瞬でも見逃さないでくださいよ?」
不敵に、自信たっぷりに。くしゃりと歪みそうになるのをこらえて、目を細めて口角を上げて笑った。
旭さんがくれた真剣な気持ち。それに、自分らしく答えたかった。
旭さんは、ちょっと驚いたあとに、ふふっと笑った。すっかりいつもの表情だ。この顔も、すごく好きだ。
俺は結局、東峰旭という人間に心底惚れてしまってるから。旭さんが見せる表情、どれもこれも、全部が好きなんだ。
「もちろん。西谷こそ、覚悟してて。」
重ねるように、旭さんの右手が、自分の左手を包む。そして指を絡めて、そっと握られた。
小さな手のひらに、大きな厚い、温かい手のひらが重なる。
もう何度も繰り返した仕草、この右手を取るのは、いつだって自分でありたい。
いや、それはもう揺るがない決定事項だ。いつだって隣には、この人がいる。愛しいこの人が。
幸せに形があるとしたら、それはきっとふわりと舞う、柔らかい雪のようなものだ。
当たり前に平凡に、けれど確かに降り積もる、この人と過ごす日々の積み重ね。
俺にとっては最高の未来予想図がそこにある。
「どうぞ、これからも・・・末永く、よろしくね。」
「はい。よろしくお願いします!」
これから、この人と歩む未来に。この人と作り上げていく、幸せのカタチに。
たくさんの誓いと祈りを詰め込んだキスは、柔らかい光の中で、どこまでも優しいものだった。
******************************
「僕が見つめる先に、君の姿があってほしい。
いくつ年をとっても、また同じだけ笑えるように。」
このお話は、元々お友達とELTの「恋文」みたいなプロポーズを旭さんがしたら!ていうので盛り上がったのがきっかけでした。
旭さんとノヤくんにとっての幸せが、お互いがいることだといいなーとか色々考えていました。
とにかく東西が一緒にいれば幸せ。なにより私が幸せです、東西尊い。
ホント長らくほったらかしになってたお話でしたが、なんとか完結です。
次また書きたいお話あるんですが、今度は終わるメドが立ってから投稿するようにします(笑)
長い間お付き合いいただきありがとうございました!
窓から見える景色は、いつだって同じだ。小学生の頃、一人部屋をもらってからこの勉強机の配置は変わっていない。
今日は鉛色の空から白い雪がはらはらととめどなく降っている。下に積もったそれは、また一層厚くなるんだろう。
ベッドの上に放り出していた携帯をいじると、メールが一件届いていた。
メールが来るたび、どきりとする。けれど、すぐに違うに決まっていると頭を振った。
表示された差出人の名前を見れば、そこにあるのはやはり思い描いた人物ではない。
「今日で、二週間か。」
新規作成のメール画面に、短い文章を打つ。
それはたった一言だけれど、打っては消して、打っては消してを繰り返す。
結局、その一文は書けないまま、電源ボタンを押した。
「内容を破棄しますか?」の問にイエスと答える。待ち受け画面に切り替わった。
待ち受けにしたバレー部で撮った写真の中の自分は、ひどく幸せそうに笑っていた。隣には、あの人がいる。
携帯をもう一度、ベッドに向かって放りだす。
メールは、送らなかった。否、送れない理由があるのだ。
「旭さんの、バカ。」
何度も打っては消した一文を、心の中でつぶやいた。
――早く、旭さんに会いたいです。
メールを送るのはもちろん、口にもできない。声に、音にしてしまえば、心が揺れる。
それは弱音を吐くみたいだと思った。
幸せのカタチ
act4.冬
最後に旭さんに会ったのは、元旦の夜だった。
30日まで冬期講習があったので、一日フリーになるのは、大晦日からだった。
今年最後の一日、今日は息抜きと決め込んで、二人で朝から遊んでいた。
仙台まで出てウィンドウショッピングをしたり、旭さんがタウン誌でチェックしていたイルミネーションを見に行ったりした。
あっという間に夜になって、二人で二年前と同じように、電車に乗り込む。
窓に映る景色も、あのときと変わらない。揺れる電車が目的地に着く頃には、海が見えていた。
駅に降り立てば、やはり潮の匂いがして、旭さんは首をすくめるみたいにマフラーに顔をうずめていた。
神社に行って、初詣をする。あのときをなぞるみたいに、甘酒を飲んだり、たこ焼きを買ったりして、「同じだね」と笑い合った。
去年は旭さんたち三年の合格祈願をするといってバレー部で新年を迎えた。だから、こうやって二人で年越しをするのは二年ぶりになる。
「なんか、懐かしいですよね。」
「そうだな、ここも全然変わってない。相変わらず人いないし。」
初詣を済ませて、夜が明ける少し前に海に出た。あのときと同じ、俺のとっておきの場所。
あの頃と違うのは、ここまで手を繋いで歩いてきたことだ。旭さんは、前は拒絶されるんじゃないかと怖くて手を取れなかったと笑っていた。
真っ黒の海を見ながら、並んで立つ。強い海風が前髪をめくって、冷たい空気にツンと鼻が痛くなった。
無意識に自分の腕をさすった俺を、「寒いから」と一つ言い訳をして、旭さんは後ろから包み込むように腕を回した。
回されたがっしりとした腕に自分のそれを添える。もたれた胸の辺りにちょうど自分の耳があって、とくんとくんと心臓の音が心地よく響く。
「初詣は、ちゃんと合格祈願した?」
「俺は受かるぞって宣言しましたよ、神様に。」
自信満々にそう言えば、西谷らしいなと旭さんは笑う。低い柔らかい声はとても優しくて落ち着く。
旭さんとの、真綿でくるまれたみたいな優しい時間。身を切るような寒さのはずなのに、気にならないくらい、心は温かった。
ほう、とゆるく息を吐いたところで、旭さんが回した手に力を込めた。
「西谷、俺、ずっと考えてたんだけどさ・・・」
「はい?」
「俺たち、これから、しばらく距離をおかないか。」
「・・・え?」
びゅう、とまた一つ風が吹いた。頬に刺さるみたいな冷たさだった。
それは一気に胸の中までも駆け抜けたようだった。さあっと温度の下がっていく感覚。
さっきまでの緩やかでふわふわした空気は一変し、一気に嫌な感じに心拍数が上がっていく。
旭さんの腕は変わらず自分を包んでいるのに、それが逃げられないように拘束されているような錯覚に陥った。
どっちにしても、身体はぴしりと固まってすっかり強張っているから、逃げ出すなんてできないのだけど。
なんで、どうしてという言葉がぐるぐると頭の中を巡る。
距離をおくって、つまり、そういうことか。今まで耐えてきたのはなんだったのだ。
分からない。ねえ旭さん、どういうつもりなの?
俺が何も言わないので、そっと旭さんは名前を呼びながら、上から覗きこむようにこちらの様子を伺ってきた。
それに合わせて、こちらも顔を上げて視線を合わせる。そうすると、伏し目がちに思い悩んだような表情は途端に様子を変えて、ひどく慌てだした。
「あ、違うよ!?その、距離をおくっていうのは、別れるとかじゃなくて!その、西谷の受験が終わるまでってことで!」
俺はそんなに、不安そうな顔をしていたんだろうか。旭さんは、小さい子をどうあやせばいいのか分からないみたいに、回した腕で俺の身体をせわしなく擦った。
ごめん、まぎらわしかったよな!言い方もっと考えたらよかった。
それがあまりに必死な様子で、すっかり八の字になった情けない旭さんの眉がなんだかおかしい。
旭さんが俺を手放そうと思ってるのではないことははっきり伝わってきて、気持ちも少し落ちついてきた。
それでも、旭さんの提案に納得ができない俺は、疑問を口にする。
「でも、なんでですか?距離をおくも何も、もともと遠距離だし、頻繁に会えないのに。」
「それは、そうだけど。・・・電話とか、メールとかも、さ。俺、心配でついしちゃいそうだから。」
そうやって決めておけば、我慢できるかなと思って。西谷の勉強のジャマをしたくないんだ。
そんなことを言う旭さんに、今度は思いっきり呆れたようにため息をつきたくなった。いや、むしろ吐いた、盛大に。
だって、その提案はとても的外れだ。俺は旭さんから連絡がくることが、勉強のジャマになるなんて思わないし、むしろ連絡がないことの方が気になりそうだ。
「俺、今まで通りで大丈夫です。そんなことで落ちたりすると思います?」
「でも・・・願掛けっていうか、俺、西谷に絶対受かってほしいし・・・」
呆れを隠そうとしない俺に対するその人の返事は、言葉を詰まらせながらも、どこか決意したような響きだった。
思ったより、本気みたいだ。これは、譲ってくれそうにない気がする。
旭さんは、へなちょこなんて言われるけど、その実はとても頑固だ。譲れないものがあるときの旭さんは、今みたいな目をする。
強い光を宿すんだ。そして俺は、悔しいけれどこの瞳に弱い。優しい色の中にある、揺らがない光が好きだった。
だって、旭さんが一番かっこいいときの瞳だから。あの最高にかっこいいスパイクを打つときの、俺のエースの瞳だから。
「旭さんは、それでいいんスか。」
「うん。そりゃ、寂しいけど、西谷の受験の方が大事だもん。」
ぐっと拳を握る姿に、これはもうどうしようもないと悟った。
俺からすれば的外れな願掛けだが、この人からしたら何より他ならぬ俺のためなのだ。自分を自制するためという理由は少し情けないけど。
そう思えば、これ以上は何も言えない。はあ、ともう一度大きくため息を吐いた。仕方ない、俺は結局、旭さんに甘い。
「・・・まあ、旭さんがそこまで言うなら、それでいいですよ。」
「なんか、スミマセン。」
「いいです、俺もその願掛けに乗っかります。せいぜい一ヶ月半くらいですしね・・・それからは。」
ずっと一緒に、いられるはずだから。
それはなんだか恥ずかしくて、更に言えば気持ちが重すぎるような気がして言わないでいたけれど、旭さんは何か感じたんだろう。
耳元に旭さんの唇が寄せられた。囁くような吐息がかかって、ふるりと身体が揺れる。
甘い声は、耳から脳、身体中、全部に沁み渡るように響く。この人の声に、勝てそうにない。
「東京で、待ってるよ。」
それから一カ月。二月の寒い冬の朝、俺は東京で電車に揺られていた。
というのも、その日は大学の受験日だったからだ。
前日に東京入りをした俺は、スガさんの家で泊めてもらっていた。
「西谷、忘れものない?受験票とか、大丈夫?」
「ばっちりっすよ!昨日も今朝も確認しました。」
電車に乗る少し前、そう言いながらスガさんのアパートの玄関のドアを開けると、そのすぐ横の壁にもたれた人がいた。
え、と見上げると、その人はこちらを向いて「おはよう」と言った。
「わ、大地さんも来てくれたんですか!」
そう、そこにいたのは去年まで一緒にバレーをしていた一つ年上の頼もしい主将だった。
「こっちで受験するって聞いたから、激励しようと思ってな。」
いつも通りの快活な笑顔をにこっと向けて、大地さんがくしゃりと頭を撫でた。さすがに面接もあるため今日は髪を下ろしているので、セットが崩れる心配はない。
ぐしゃりと髪をかき混ぜる大きな手に、少しだけ旭さんを思い出して、なんだかほっとする。
やるだけやった、と意気込んでここまで来た。けれどやはり心の奥にある少しの不安が、頭を擡げる。
だから、見知った二人の先輩がここにいてくれることが嬉しかった。
「へへ、ありがとうございます。」
「旭もバカだよな。願掛けなんだって?会わないの。」
「そうなんスよ。正月から全然連絡取ってなくて。」
「はは、旭ってそういうの好きだよね。占いとかも信じちゃうタイプでさ。」
しょーがないと呆れたように言う二人の声には、どこか優しい色が含まれていた。
一つ上の三人は、とても仲が良い。それは高校のときからで、その三人の関係が俺はすごく好きだった。
俺の一番大好きな人を、俺の大事な人たちが大切に思ってる。それはとても、嬉しいことだ。
「じゃあ、いってきます。」
ありがとうございました、と深く礼をした俺に、スガさんが白い封筒を差し出した。
手のひらより少し大きいそれに、首をかしげる。
「なんすか、これ?」
「開けてみ。」
ガサガサと封筒の中に手を突っ込むと、小さなお守りが入っていた。橙色のそれは、俺のユニフォームの色とよく似ている。
「学業成就」と描かれたそれと一緒に入っていた二つ折りのメモを開く。そこに並ぶ文字に、だんだん頬が熱くなるのが分かった。
「・・・あの、伝言、お願いできますか?」
「うん。」
「絶対合格します、って。」
「はは、分かった。」
二人に手を振って、おれは歩きだした。さっきのお守りとメモは、ポケットの中。
メモには、お決まりの激励の言葉ともう一つ。
その一言は、不安も全部吹き飛ばすみたいに元気をくれた。俺ってホント、しょうがないんだ。
ちょっと離れてみたって、全然変わらない。俺のド真ん中にいる旭さんは揺らがないんだって思うと、なんだか嬉しいようなくすぐったいような気持ちになった。
――俺、スタメンになったよ。早く、西谷とバレーしたい。
そして滞りなく終わった試験からさらに半月。今日はついに、合格発表の日だ。
受験の日と同じく、今度も一人で、校門をくぐった。旭さんは、やっぱり隣にいない。
もう試験終わってるし、会おうがどうしようが結果には影響なんかないんだけど、合格するまでが旭さんの「願掛け」らしい。
まあ、今更どうこう言う気もないので、俺も強く会いたいとは申し出なかった。
宮城に帰ってからは、一足先に進路が決まっていた龍を呼び出して、バレー部に入り浸っていた。
久々に思い切り身体を動かすのは気持ちよくて、少し鈍ってしまった感覚を取り戻すみたいに、ひたすらにボールを追いかけた。
ボールを追う中に、いつだって旭さんの姿がイメージされていた。もう一度、あの背中を守りたい。
旭さんがくれたあのメモは、財布の中に入れている。なんか女子みたいだって恥ずかしい気もするけど、あの一言はそれくらい嬉しかった。
校内をしばらく歩いたところで、校舎の脇にある掲示板には人だかりができていた。色んな表情の人がいて、これで明暗が分かれるのかと改めて感じる。
一歩近づくたび、少しずつ心臓の音が大きくなる。受験番号を頭の中で復唱しながら、人波を掻きわけてその前に立つ。
たくさん並ぶ4ケタの番号の中に、自分のものを探した。「ある、ある」と言い聞かせるように、端から番号を目で追う。心臓が痛い。
「・・・あった。」
思わず口から零れた言葉を、もう一度頭の中で繰り返した。あった、俺の番号。
握りしめていた受験票と掲示板を交互にもう一度見て確認する。やっぱり同じ番号がそこにあった。
合格、した。
「よ・・・っしゃー!」
やった。これで、これで――旭さんと、バレーできる!
真っ先に浮かんだのは、何度もイメージしていたコートを飛ぶ背中だった。
振り上げたしなやかでたくましい腕、目の前のブロックなんて関係ないみたいに弾き飛ばされたボール。
あの背中に焦れて焦れて、この一年を過ごしたんだ。やっと、追いつける。隣を歩くことができる。
「あ、電話、電話・・・」
最後に会った時、合格発表を確認したら連絡がほしいと言っていた。きっと俺以上に心配しているに違いない。
電話帳の画面を開き、一番上にある「旭さん」の携帯番号を表示する。そして通話ボタンを押す直前、指を止めた。
旭さんの家まで、ここから電車で10分と掛からない。どうせなら、直接伝えたい。
想像の中で、旭さんがびっくりしてほっとして、それからうんと嬉しそうに笑っていた。
これを直にこの目で見たい。声だけじゃなくて、目の前で。触れられる距離で。
「おめでとう」を、あの腕の中で聞きたい。
そこまで考えたら、あとは簡単なことだった。俺は悲喜こもごもな掲示板の前から抜け出して、走りだした。
駅に飛び込んで、改札を抜ける。揺られている少しの時間ももどかしくて、何度も携帯を手にしそうになっては我慢した。
最寄り駅に降り立てば、やっぱり気持ちは急かされてしまって、歩を進めるのが気がつけば掛け足になっていた。
どんどん流れていく景色の中、目指すのは川沿いに並ぶ、まだ咲かない桜並木の向こう側。小さな二階建てのアパートは、すぐそこだった。
軽く息を切らせながら、目の前の建物を仰ぎ見る。二階の一番端の部屋。そこを目指して、カンカンと音を鳴らしながら階段を上っていく。
気持ちが急いて、早足になりながら、一歩一歩を踏みしめていく。
扉の前に立って、少し上がった息を整えるように深呼吸した。
いつものようにチャイムは鳴らさない。そっとドアノブをひねってみたら、ガチャンと音がしただけで引くことはできなかった。
やっぱり、と心の中で思う。旭さんは一人でいるときもいつもちゃんと施錠している。
――いきなり俺が現れたら、旭さんびっくりするだろうな。
驚いた旭さんの顔を想像して、一人でにやにやしてしまう。鞄の内ポケットから、バレーボールのストラップがついた鍵を取りだした。
夏休みに、旭さんからもらった合鍵。結局あれから使うことはなくて、今日が初めてだ。
なんだか照れくさい。そう思いながら、鍵穴にそれを差し込んだ。ちょっと力を込めたら、カチャリと錠の外れる音がした。
「旭さ――」
扉を開く。その瞬間、俺の頭はフリーズした。
「――え?」
――そこには、自分の思い描いていたものは何一つなかった。
扉の向こうにあるはずのものは、俺の描いていたものは、どこにもなかった。
玄関に並んでいた大きな靴も、下駄箱も、入ってすぐのキッチンの調理用具も。
食器や炊飯器を置いていたチェストも、電子レンジも冷蔵庫も。文字通り、何もないのだ。
奥の部屋へと続く扉も開け放たれていて、カーペットもタンスもなかった。カーテンさえもなくて、窓から差し込む光は遮られることもなく床を照らした。
差し込む光に照らされた微かな埃がキラキラと反射している。それがどこまでも現実味を失わせていた。
がらんどうのそこには、人が住んでいる気配は微塵もない。ただただ、空っぽだった。
込み上げてくる不安と緊張と、それに伴って早くなる鼓動が俺を支配した。
何も考えられない。目の前の事実を受け入れられない。頭が真っ白になるって、きっとこういうことだ。
さっきまでの浮足立った気持ちなんかもうどこにもなくて、足は知らぬ間に震えていて今にも座り込んでしまいそうだ。
扉を閉じることもできないまま、茫然と立ち尽くすしか術がない。
「あさひ、さん。」
震える声で、名前を呼ぶ。一気に目の前が揺らめく。何もないその部屋が滲んでいく。
どうして、どこに。どこにいるの、旭さん。
旭さん、旭さん、旭さ――
「あれ、西谷?」
ばっと声に反射のように振り返れば、そこには探していた姿があった。
ゆるくまとめた長髪と、垂れた目尻と、丸くなった瞳。逞しい胸板と、それを隠すみたいな柔らかいクリーム色のカーディガン。
――旭、さんだ。俺の知ってる、旭さんだ。
なんでここに、なんて言いだそうとした旭さんのびっくりした表情は、みるみるうちに焦りの色を帯びた。
「に、ににに西谷!どうしたの!?な、泣かないで、大丈夫!?」
「は!?泣くって・・・」
何を言ってるんだと思うと同時に、慌てて近づいた旭さんの指先が自分の目元に触れる。そこで俺は、自分の瞳から滴が零れていることに気付いた。
恥ずかしくて、かあっと頬に熱が集まる。隠すようにして、旭さんの手を押しのけて自分のもので押さえつけた。
「ち、違っこれは・・・!」
違うと言っても、何が違うのかも分からなくて、それ以上は言葉に詰まる。まだ、混乱しているのだ。
空っぽの部屋、誰もいない部屋、ここにいる旭さん。うまく結び付かない。
訳が分からないまま、ぼろぼろと涙はとめどなく溢れてしまうのでなんとか止めようと乱暴に擦った。
そんな俺の手を、旭さんはそっと制した。赤くなるよ、と言いながら瞼に優しく唇が触れる。
「なに、」
ちゅ、ともう一度降ってくるキスに慌てふためく。ここ、外だよな?家の前だよな?
何してんの、旭さん!
「ちょ、旭さん!」
「あ、ごめん・・・つい。」
つい、じゃねえよ。真っ赤になった俺の頬を大きな手が撫でる。「よかった、泣きやんで。」なんて嬉しそうに笑うので思わず突き飛ばしてしまった。
たたらを踏みながら、痛いなんて言ってても知らない。
誰のせいだ、誰の!
「旭さん、これ、どういうことですか?」
開け放した扉の方を指さすと、旭さんは頭を掻きながら「あー・・・」と視線をさまよわせた。はっきりしない。
「それは、後でちゃんと説明するから。あの、それより、結果・・・」
気まずそうに旭さんが尋ねてくる。
俺はふんっと胸を張って、旭さんの目の前でブイサインを作ってみせた。
「ばっちり合格です!これで、春から俺も旭さんと同じ学校です!」
「そっか・・・よかった~・・・!」
へたへたとしゃがみこんだ旭さんは、膝にペタリと頬をつけて脱力していた。本当に、心配してくれていたんだろう。
俺も旭さんに倣うように腰を下ろす。目の前にある旭さんのつむじが、なんだかかわいくってそこに手のひらを乗せた。
よしよしをするみたい、少し癖のある髪を撫でる。
「俺、絶対合格するって言ったじゃないですか。」
「そりゃ、俺だって信じてたけどさ。やっぱり、心配ってのは尽きないもんだよ。」
「安心しました?」
「すっごく。・・・本当に、おめでとう、西谷。」
「ありがとうございます。」
旭さんが顔を上げて、つむじは見えなくなった。代わりに、優しく下がった眦と柔らかい笑顔があった。
ゆっくり近づいてくるそれを、今度は突き飛ばしたりしなかった。ほんの少し、触れるだけのキス。
それから、ぎゅうっと首に腕を回されて、抱きしめられた。旭さんの肩口に顔をうずめるようにしながら、俺はほうっと息を吐く。
このぬくもりが欲しかったのだ。くぐもった「おめでとう」に、胸の中にあたたかいものが広がる。
「やっと、西谷に触れられる。」
「さっき、ちゅーしたじゃないですか。」
フライングですねとからかったら、「西谷泣くから焦ったんだよ」と口を尖らせた。
そんな仕草がかわいいなんて言ったら、この人はどんな顔をするかな。
照れるかもしれないし、いつもみたいに困った笑顔を向けるかもしれない。どちらでも、すごく幸せな想像だ。
「あの、さ・・・西谷に、ついてきてほしいところがあるんだ。一緒に来てくれる?」
回した腕を緩めながら、こちらを覗きこむみたいに旭さんが言った。
空気が変わった。随分と真面目な顔つきで、緊張をはらんだ視線が寄こされている。
現状を思うとやっぱり良く分からないけど、旭さんの真剣さにとりあえずコクリと一つ頷くと、旭さんはほうっと胸をなでおろしたようだった。
踵を返して、一歩前に出た旭さんが手袋を外した右手を差し出した。それにそっと自分の左の手のひらを重ねる。
カンカンと下りる階段の音が二つ分響いていて、冬の空気を揺らしている。
手袋を外したばかりの、自分より少し高い手の温度に、ああこの人の隣にいるんだなと実感した。
連れられてきたのは、さっきまでいたアパートからそう遠くない場所だった。
同じように二階建てのそれは、赤い屋根でそれぞれの階にドアが四つずつ並んでいる。
「アパート・・・?」
旭さんは俺の呟きに返事はせずに、階段を上って一番奥の部屋の前に来た。
カギを取りだしたのを見て、俺はやっとさっきの空っぽの部屋とここが繋がった。
「どうぞ。」
旭さんに促されて入ったその部屋は、思ったよりずっと広かった。
前の家と同じように、入ってすぐにキッチンと風呂、トイレがある。
仕切りになっているドアを開けば、大きめの部屋があり、その奥には寝室だろうか、もう一つベッドを置いてある部屋があった。
部屋の中はというと、前の家で見たものと同じテレビやチェストが置いてあるけれど、無造作に積まれた段ボールが床を占拠していた。
寝起きは出来ないことはないが、引っ越してきたばかり、という印象だった。
「旭さん、ここに引っ越してたんですか?」
「うん、手続きは昨日済ませてたんだけど、ちょっとバタバタしてて。」
そうだったんだ。そんなこと、全く知らなかった。
まあ、連絡を絶っていたのだから当然と言えば当然なのだが。
しかし、どうして引越しをしたのだろう。まだあの家は、一年しか住んでいない。
学校に通うのにも、前に聞いたバイト先に通うのにも、条件が悪いとは思えなかった。何か、トラブルでもあったのだろうか。
「なんで、このタイミングで引越しなんですか?」
「それは、その・・・」
口ごもる旭さんは、額にうっすらと汗を掻いていた。
口を開いては閉じ、何かを言おうとするが音にはならない。静寂した部屋の中は、カチカチと時間を刻む時計の針の音だけだ。
二人、部屋の真ん中に立ちつくしていた。窓からは午後の柔らかい光が部屋に差し込んでいて、旭さんの赤茶色の髪が日に透けている。
頭の先から、つま先まで。全てを脳に焼き付けていくみたいに見つめているのに、視線は合わない。
必死に言葉を探している旭さんは、すっかり眉を八の字にしている。なんだか、つらそうにさえ見えた。
「あの、別に言いにくい理由なら・・・」
「違う、そうじゃなくて!・・・勇気が、いるんだ。」
――勇気?
「何度も、頭の中で練習したのにな。・・・いざとなると、言葉って出ないんだ。」
はは、といつものちょっと情けない笑顔を顔に貼り付けて、旭さんがこっちを見る。
それから、目の色がゆっくりと静かなものになって、こちらを捉えた。旭さんの緊張が、移ったみたいだ。俺も動けなくて、心臓がうるさい。
ピンと張った空気を破ったのは、旭さんだった。
ポケットの中に手を入れて、そっと拳を差し出してくる。
俺はそれに従うように、右手の手のひらを上にして広げた。そこに置かれたのは、銀色のカギ。
前にもらったものと少し違うソレに、その意味を考えて――自分の頬に朱が差すのが分かった。
「旭さん、これ・・・」
「待って。ちゃんと、言うから。・・・聞いてほしいんだ。」
一つ、大きく息を吸った旭さんを穴があきそうなほどに見つめていた。
「オレ、この一年間、西谷と離れて・・・不安な時も、会えなくてつらい時もあったけど、気持ちは全然変わらなかった。それどころか、西谷と離れている間に、どんなに西谷が好きだったか思い知らされた。恋しいって、きっとこういう気持ちなんだって思った。」
そう続ける旭さんに、俺は心の中で頷いた。俺も同じだ。寂しくて、恋しくて、でもそれ以上にずっとずっと旭さんを好きだった。
たくさんの好きが、会えない間も身体の中に積もっていた。
でも、言わない。旭さんの言葉に、黙って耳を傾ける。
これはきっと、最後まで黙って聞くべきなんだ。
そっと、手が肩に触れる。それが首筋を通って、頬に触れた。
動けないままのオレは、ただ旭さんを見つめた。まっすぐ、まっすぐに。
旭さんもまた、こっちを見ていた。視線が交錯して、近すぎて輪郭がぼやけるほどに、お互いしか映していない。
静かに、揺るがずに。強い意志を湛えた瞳が俺を捉えてることに、もう胸がいっぱいで苦しい。
「これからの西谷の時間を、俺にくれないか。見つめる先に、西谷の姿があってほしい。」
これから先、ずっとずっと、お前と一緒に歩いていきたいんだ。
その言葉に、目を見開いた。まん丸になった目から見える視界は、だんだんと揺らめきだす。
揺れる視界をクリアにしたくて、親指で下瞼を擦る。ほんの少し、水滴が指先についていた。
旭さんの顔が滲んだままでは嫌だった。一瞬だって、見逃したくなかった。旭さんの全てを、見ていたかった。
そうだ、ずっと――俺は、この人を見ていたい。そしてこの人の見つめる先に、この人の世界の中にいたい。
「・・・しょうがないっすね!一瞬でも見逃さないでくださいよ?」
不敵に、自信たっぷりに。くしゃりと歪みそうになるのをこらえて、目を細めて口角を上げて笑った。
旭さんがくれた真剣な気持ち。それに、自分らしく答えたかった。
旭さんは、ちょっと驚いたあとに、ふふっと笑った。すっかりいつもの表情だ。この顔も、すごく好きだ。
俺は結局、東峰旭という人間に心底惚れてしまってるから。旭さんが見せる表情、どれもこれも、全部が好きなんだ。
「もちろん。西谷こそ、覚悟してて。」
重ねるように、旭さんの右手が、自分の左手を包む。そして指を絡めて、そっと握られた。
小さな手のひらに、大きな厚い、温かい手のひらが重なる。
もう何度も繰り返した仕草、この右手を取るのは、いつだって自分でありたい。
いや、それはもう揺るがない決定事項だ。いつだって隣には、この人がいる。愛しいこの人が。
幸せに形があるとしたら、それはきっとふわりと舞う、柔らかい雪のようなものだ。
当たり前に平凡に、けれど確かに降り積もる、この人と過ごす日々の積み重ね。
俺にとっては最高の未来予想図がそこにある。
「どうぞ、これからも・・・末永く、よろしくね。」
「はい。よろしくお願いします!」
これから、この人と歩む未来に。この人と作り上げていく、幸せのカタチに。
たくさんの誓いと祈りを詰め込んだキスは、柔らかい光の中で、どこまでも優しいものだった。
******************************
「僕が見つめる先に、君の姿があってほしい。
いくつ年をとっても、また同じだけ笑えるように。」
このお話は、元々お友達とELTの「恋文」みたいなプロポーズを旭さんがしたら!ていうので盛り上がったのがきっかけでした。
旭さんとノヤくんにとっての幸せが、お互いがいることだといいなーとか色々考えていました。
とにかく東西が一緒にいれば幸せ。なにより私が幸せです、東西尊い。
ホント長らくほったらかしになってたお話でしたが、なんとか完結です。
次また書きたいお話あるんですが、今度は終わるメドが立ってから投稿するようにします(笑)
長い間お付き合いいただきありがとうございました!
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